「深呼吸してるのに、なぜか疲れが取れない…」

「疲れが取れないから深呼吸してみたけど、あまり変わらない」——そんな声を、整形外科クリニックの現場でよく耳にしました。

30代になると、若い頃と同じ量の睡眠をとっていても、なんとなく朝からだるさが抜けない日が増えてきます。ストレッチや軽い運動を試しても、思ったほどスッキリしない。そんなときに「深呼吸」を試す方はとても多いです。

ところが、深く吸ったつもりでも肩が上がるだけで胸やお腹が動いていない、というケースがよくあります。深呼吸が届いていないのは、呼吸のフォームが崩れているサインかもしれません。

呼吸は毎日2万回以上おこなう、いちばん頻度の高い体の動きです。だからこそ、フォームが崩れたまま続けていると、疲れやこりの回復力にじわじわ影響していきます。逆に言えば、呼吸のフォームを少し整えるだけで、体の重さがふっと軽くなったと感じる方も少なくありません。

30代の呼吸が浅くなる本当の理由

呼吸は「肺がふくらむ」ように感じますが、実際は横隔膜(お腹と胸の間の筋肉)や肋間筋(あばら骨の間の筋肉)が動いて、胸郭というカゴの容量が広がる仕組みです。

デスクワークや運動不足などの生活習慣が重なると、この胸郭の動きは小さくなりやすくなります。30代以降で疲れが抜けにくいのは、年齢よりも生活習慣の積み重ねの影響が大きいです。

1つ目は、長時間の座り姿勢です。デスクワークや車の運転で背中が丸まると、お腹側が縮んで横隔膜が下がりにくくなります。2つ目は、巻き肩・猫背によって胸が閉じ、肋骨のカゴが開きにくくなること。3つ目は、慢性的な緊張やストレスで、無意識に呼吸が速く浅くなる傾向です。

さらに、夏は冷房や暑さで肩に力が入りやすく、首の呼吸補助筋(斜角筋・胸鎖乳突筋)ばかりを使って「肩で息をする」状態になりがちです。すると横隔膜の出番が減り、呼吸が浅い→交感神経が優位になりやすい→疲れが抜けにくい、というつながりが起きることがあります※1。

呼吸が浅いのは「意識の弱さ」ではなく、体の使い方のクセです。 クセなら、いくつになっても整えていけます。

深呼吸のつもりでできていない3つの落とし穴

① 吸うときに肩がすくむ

いちばん多いのが、大きく吸おうとして肩がぐっと上に上がってしまうパターンです。これは首の呼吸補助筋に頼っている状態で、横隔膜が十分に働きにくい状態になっています。首や肩がこわばりやすく、深呼吸のあとに肩が余計に重く感じる方もいます。

② お腹が動かず胸だけがふくらむ

胸だけが持ち上がってお腹はぺたんこのまま、というパターンも多いです。これは横隔膜が十分下がらず、胸郭の上のほうだけで換気している状態です。「深呼吸=胸をふくらませること」だと思っていると、なかなか整いません。

③ 吐くのが短い・すぐ吸い直す

吸うことばかり意識して、吐く時間が短いパターンも見落とされがちです。息をしっかり吐き切ると、次に自然に深く吸えるようになります。逆に吐きが浅いと、十分な換気が得られにくくなり、浅い呼吸を重ねる状態が続きます。

私自身も、施術中に患者さんの呼吸を観察しながら、「浅い呼吸が続く方は、施術で緩んだ首肩がその日のうちに戻りやすい傾向」を感じることがありました。呼吸の質そのものが、体の緊張の戻りやすさに関わっていると現場で学びました(※あくまで観察の傾向で、個人差があります)。

腹式呼吸を効かせる3ステップ

呼吸のフォームは、いきなり立った状態で整えるより、「仰向け→座り→立ち」の3段階で進めると体に入りやすいです。生活の中で少しずつフォームを移していくイメージで進めましょう。

ステップ1:仰向けで横隔膜の動きを取り戻す

床やベッドで仰向けになり、両ひざを軽く立てます。片手をお腹(へその少し上)、もう片方を胸に置きます。

  • 鼻から3〜4秒吸い、お腹側の手が持ち上がるのを確認
  • 口をすぼめて6〜8秒かけて吐き、お腹側の手が下がるのを確認
  • 胸の手はできるだけ動かさない

まずは1日1〜2回、5呼吸ずつ。仰向けは重力の影響が少なく、横隔膜がいちばん動きやすい姿勢なので、フォームを覚えるのに向いています。鼻から吸うことで、空気の加温・加湿ができ、呼吸のペースも安定しやすくなります。

ステップ2:座って肋骨のカゴを広げる

椅子に浅めに座り、両手を肋骨の横(脇腹のあばら骨)に軽く添えます。

  • 鼻から吸いながら、肋骨のカゴを左右・後ろ方向に広げるイメージ
  • 吐くときは、肋骨がゆっくり閉じる感覚を追いかける
  • 肩は上がらないように意識

胸郭は立体的なカゴです。座り姿勢では「横に広がる感覚」を優先すると、猫背でつぶれていた側面が動き出しやすくなります。

ステップ3:立って呼吸と姿勢をつなげる

立って軽く足を開き、両手をあばらの横に。ステップ2と同じように、吸うときに肋骨を横へ、吐くときに閉じる動きを繰り返します。

慣れてきたら、通勤中の信号待ち・電車の中・料理中など、日常の動作にそっと組み込みます。立って呼吸を整えられるようになると、生活の中の細切れ時間がまるごと呼吸トレーニングに変わっていきます。

なお、めまいや苦しさが出るほど無理に深く吸わないでください。心地よい範囲で続けるのがコツです。

(30代以降で息苦しさ・動悸・胸痛・咳が続く場合は、呼吸法を始める前に医療機関で体の状態を確認してもらってください。)

呼吸を日常に組み込む3つの工夫

工夫1:スマホの通知と呼吸をセットにする

スマホの通知が鳴るたびに1呼吸だけ整える、というルールをつくると、意識せずに練習の回数が増えます。1日30〜50回の通知を「呼吸のリマインダー」に変えるだけで、24時間のうちの呼吸の質がじわじわ変わっていきます。

工夫2:吐く時間を「吸う時間の倍」にする

吸う3秒に対して吐く6秒、というリズムを目安にすると、副交感神経が働きやすいと言われています※2。数を数えるのが面倒なら「ふぅ〜」と長めに声を出しながら吐くだけでも十分です。

工夫3:夜のお風呂上がりに5呼吸だけ

お風呂上がりは体が温まって胸郭がゆるみやすいタイミングです。ベッドの上で仰向けになり、ステップ1を5呼吸だけおこなうと、そのまま眠りに入りやすくなる方が多いです。「がんばる」より「毎日少し」のほうが呼吸は育ちます。

加えて、長時間の座位では1時間に1回は立ち上がって、軽く肩や胸を伸ばすと、呼吸フォームが崩れにくくなります。

こまかい理論より、生活の動線に呼吸を差し込むことのほうが、長い目で見て効きます。眼精疲労や肩こりでお悩みの方は、30代の眼精疲労|目薬だけで取れない本当の理由も合わせて読むと、呼吸と姿勢のつながりが理解しやすくなります。

まとめ

  • 30代から呼吸が浅くなるのは、意識の問題ではなく座り姿勢や巻き肩など体の使い方のクセの積み重ね
  • 深呼吸ができていないサインは「肩がすくむ・胸だけふくらむ・吐きが短い」の3つ
  • 仰向け→座り→立ちの3段階で、横隔膜と肋骨のカゴを取り戻すのが近道

呼吸は毎日2万回のトレーニングチャンスです。1日5呼吸でも、フォームが整ってくると、体の重さや疲労感の抜けやすさが変わってきます。自律神経の乱れや眠りの浅さが気になる方は、30代の体の不調、自律神経の乱れが原因かも寝ても疲れが取れない30代へ|眠れない本当の原因も合わせて読んでみてください。

セルフチェック(当てはまる項目があれば呼吸の見直しどき)

  • 深呼吸をすると肩が上に上がる
  • 座って手をお腹に置いても、あまり動きを感じない
  • ため息が多い、または口が半開きになりやすい
  • 朝起きたときに、あごや首がこわばっている
  • 集中すると呼吸を止めていることがある

やりがちなNG

  • 「大きく吸えばいい」と思って、無理に肩をすくめて吸う
  • 「腹式呼吸=お腹をぷっくり突き出す」と勘違いして、腰を反ってしまう
  • 吸うことばかり意識して、吐く時間が短い
  • 毎日3分などノルマを決めて、続かなくなる(1日5呼吸で十分)
  • 動悸・胸痛・息苦しさがあるのに、呼吸法だけで乗り切ろうとする

受診の目安(呼吸法だけで対応しないほうがよいケース)

  • 安静時にも息苦しさや動悸が続く
  • 咳や痰が2週間以上続いている
  • 胸の痛みや締めつけ感がある
  • めまい・失神・強い不安感を伴う
  • 睡眠中の無呼吸・大きないびきを家族から指摘されている

これらに当てはまるときは、呼吸法を始める前に、内科や呼吸器内科などの医療機関で体の状態を確認してもらってください。

よくある質問

Q1. 腹式呼吸と胸式呼吸、どちらが正解ですか?

どちらか一方が正解というわけではありません。日常のリラックス時間は腹式(横隔膜)中心、運動や発声のときは胸式(肋骨のカゴ)中心、と使い分けるのが自然です。今回の記事は「日常の疲労回復」を目的にしているので、腹式呼吸から入ることをおすすめしています。

Q2. 1日何回・何分やればいいですか?

最初は1日1〜2回、5呼吸ずつで十分です。時間で決めるより「歯みがき後」「お風呂上がり」など生活動作に紐づけたほうが続きます。慣れてきたら1日3〜5セットまで少しずつ増やしてOKです。

Q3. マスクをつけていると呼吸が浅くなりますか?

マスクそのものより、口呼吸になりやすく、姿勢が下向きになりやすい点が影響することがあります。マスクを外せる場面では鼻から吸うことを意識するだけでも、呼吸の質は変わりやすいです。

Q4. ヨガやピラティスと何が違いますか?

ヨガやピラティスは呼吸と動きを組み合わせたエクササイズで、とてもおすすめの選択肢です。今回の3ステップは、レッスンに通う前の「土台づくり」として、自宅で1人でもできる基本フォームを解説しています。

Q5. 呼吸法をやると眠くなります。大丈夫ですか?

副交感神経が働いてきているサインなので、体が休息モードに切り替わっている良い反応です。夜であればそのまま眠ってしまってOK。日中に眠気が強すぎる場合は、吐きの長さを少しだけ短くして、吸う時間とのバランスを見直してみてください。

出典・参考文献

※1 厚生労働省「こころもメンテしよう ~若者を支えるメンタルヘルスサイト~」腹式呼吸をくりかえす https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/self/self_03.html

※2 厚生労働省 e-ヘルスネット「自律神経失調症」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html

✍️ この記事の執筆者

ふみや|柔道整復師

整形外科クリニックのリハビリ室での臨床経験あり。30代以降の体の不調と向き合ってきた立場から、痛み・こり・姿勢・運動のセルフケアを「やさしく、でも本質を外さず」をモットーに発信しています。

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