「テニスしていないのに肘が痛い…」よくある悩み

「またこの肘の外側の痛み…」——タオルをしぼった瞬間や、マウスをクリックしただけで、肘の外側にズキッと痛みが響く。そんな相談をリハビリ室で受けることが、ここ数年で明らかに増えています。

皆さん口をそろえて「テニスなんて一度もしたことがないのに、なぜテニス肘って言われたんだろう」と首をかしげます。

肘の痛みは、テニスをするかどうかではなく、「手を毎日どう使ってきたか」の積み重ねから始まっています。

日常生活では、仕事のパソコン作業に加えて、育児で子どもを抱っこしたり、片手で重い買い物袋を提げたり、スマホを長時間握ったりする機会が一気に増えます。肘は、手首と肩の間で「中継ぎ」の役割を担う関節。だからこそ、手の使いすぎのしわ寄せが最初に出やすい場所でもあります。

「なんで自分だけ」と落ち込む必要はありません。原因の背景がわかれば、対処の方向性は必ず見えてきます。

肘の痛みが長引く本当の理由

肘の外側の痛みは、正式には「上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)」と呼ばれます。テニスのバックハンドで発症しやすいことから「テニス肘」という通称がついていますが、実際にはテニス経験がなくても、日常動作の繰り返しで起こる方が多い症状です(※1)。

大事なのは、肘そのものが弱ったから痛むのではなく、肘の外側についている前腕の筋肉(手首や指を伸ばす筋肉のグループ)の付着部が、酷使と回復の追いつかなさで悲鳴を上げている状態だという点です。近年は、単なる一時的な炎症というより、小さな損傷と修復を繰り返すうちに腱の状態が変化していくという捉え方も広がっています。

日本整形外科学会も、上腕骨外側上顆炎の背景として「手関節や指を伸ばす筋肉の使いすぎ」を挙げています(※1)。ここで見落とされがちなのは、犯人が肘ではなく、その上下にある「手首の使い方」と「肩の動かなさ」にあるということ。

肘は「悲鳴の場所」であって、「原因の場所」ではない。

痛みを我慢したまま同じ動作を続けると、小さな負担が積み重なって、数か月以上長引くこともあります。「まだ我慢できる」と後回しにせず、早めに手を打ってください。

テニスしなくても肘が痛くなる3つの原因

① マウス・スマホ・タオル絞りなど「握る動作」の反復

パソコン作業でマウスを握り続ける、スマホを片手で長時間支える、洗濯物をしぼる、フライパンを持つ——。これらは、前腕の筋肉を細かく緊張させ続ける動きです。マウスも「握る」だけでなく、クリックの繰り返しや、手首を少し反らせた姿勢の長時間キープが、静かな負担として積み重なります。

さらに要注意なのが、スーパーの買い物袋を肘を伸ばしたまま提げる姿勢。肘が伸びきった状態で重さを支えると、前腕の付着部に強いストレスが集中します。

「重いものを持ったわけではないのに」と感じても、軽い力で長時間続く動作のほうが、実は筋肉の疲労はたまりやすい傾向があります。子育て中の方から「授乳や抱っこを始めてから急に肘が痛くなった」という相談が増えるのも、この背景です。

② 前腕の硬さと、手首の使い方のクセ

前腕の筋肉が硬くなると、肘の外側の骨の付着部(外側上顆)にストレスが集中します。特に、手首を反らせる動きや、親指側に手首をひねる動きの繰り返しで、この付着部が悲鳴を上げやすくなります。

前腕の硬さは、手首の痛みや腱鞘炎とも同じ背景を持つことが多く、両方に悩む方も少なくありません。触ってみると、肘が痛い方の前腕は板のようにガチガチになっているケースが目立ちます。

③ 肩甲帯の動きの悪さも「負担を増やす要因のひとつ」

見落とされがちなのが、肩甲骨や肩まわりの動きの悪さです。本来は肩・肘・手首の3つで分担する動作も、肩甲骨が硬いと肘と手首に負担が偏ることがあります。

原因は人それぞれですが、肩甲帯の動きの悪さは「症状を長引かせる要因のひとつ」として、現場でよくチェックする項目です。デスクワークで巻き肩の方や、四十肩で肩がスムーズに動きにくい方背中のこりが慢性化している方は、肩の代わりに肘が疲弊しているケースが多い印象です。

肘の痛みをやわらげる3つの方向性

「湿布と肘バンドだけで数か月経ってしまった」という声もよく聞きます。それだけでは、原因の連鎖が残ったままになりがちです。次の3つの方向性で立て直しを図ります。

① 前腕を「ゆるめる」ケア

痛みが強い時期は無理にストレッチせず、まずは前腕全体をさすったり温めたりして、筋肉の緊張を和らげ、動かしやすい状態を作ることから始めます。ストレッチを本格的に入れるのは、痛みが落ち着いてきた時期から——急性期にグイグイ伸ばすと悪化させてしまうので、順番を守ってください。

落ち着いてきたら、腕を前に伸ばして反対の手で手首を軽く手のひら側に折るストレッチを、痛みが出ない範囲で20〜30秒×2〜3回。

セルフマッサージは触る場所の区別が大切です。前腕の中央の筋腹は軽くさすってOK。ただし肘の骨のすぐ横(付着部)は押したりグリグリ揉んだりしないでください。

痛気持ちいい一歩手前で止めるのが、遠回りに見えて一番の近道です。

② 手首の使い方を「小さく変える」

マウス操作にリストレストを添える、スマホを両手で持つ、フライパンを両手鍋に替える、ドライヤーは反対の手も交互に使う——。地味ですが、「1日の総使用量」を減らす小さな引き算が、回復スピードを大きく変えます。

利き手ばかりを使いすぎているクセに気づくことが、実は肘を守る第一歩になります。

③ 胸張り&肩甲骨寄せでデスクの巻き肩をリセット

椅子に座って背筋を伸ばし、両手を体の後ろに回して指を組みます。ここで大事なのは、腕を後ろへ引く力で肩甲骨を寄せるのではなく、肩甲骨そのものを背骨側にゆっくり寄せる意識です。腕は後ろで組んでいるだけの状態を保ち、動きの主役は肩甲骨に任せます。5秒キープ×5〜10回、1〜2時間に1回を目安に。呼吸を止めないのがコツです。

肩が動きやすくなることで肘への負担が分散し、症状が軽くなる方もいます(全員ではありません)。肘だけを見ずに肩まで含めてケアする価値は、十分にあると感じます。

今日からできる3つのアクション

  • お風呂上がりに前腕を1分間さする:手首から肘まで、手のひらで温めるように往復。就寝前がベスト。
  • マウスを持たない手を意識的に使う:ペットボトルの蓋を開ける、リモコンを持つ、歯磨き粉を絞る——反対の手にも仕事を回すクセをつける。
  • 1時間に1回、肩をぐるっと5回まわす:巻き肩リセット。肘だけに頑張らせない体を作る第一歩。

まとめ

  • 肘の痛み(テニス肘)は、テニスをしなくても、日常で手をどう使うかの積み重ねから起こります。
  • 犯人は肘そのものではなく、前腕・手首・肩甲帯の連鎖にあります。
  • 「ゆるめる・使い方を変える・分散させる」の3方向で立て直せます。

肘の外側の痛みは、湿布と肘バンドだけで放っておくと、半年〜1年と長引くことがあります。「肘だけを見ないで、手と肩まで丁寧に見る」——これが遠回りに見えて、いちばんの近道です。

セルフチェック

当てはまる項目が多いほど要注意です。

  • タオルをしぼると肘の外側にズキッと痛みが走る
  • マウスをクリックしたとき、肘の外側が響く
  • 子どもや荷物を持ち上げる瞬間、肘が痛い
  • ペットボトルのキャップを開けるだけでも肘の外側に痛みが出る
  • 握る力が以前より弱くなった気がする
  • 前腕の外側(手の甲側)を押すと、肘のすぐ下がピンポイントで痛い
  • 肩こりや背中のこりが慢性化している

やりがちなNG

  • 痛いのを我慢して同じ動きを続ける(悪化・慢性化の入り口になりやすい)
  • 強い力でグリグリと肘の付着部をマッサージする(かえって炎症を長引かせやすい)
  • 湿布と肘バンドだけで数か月放置する(前腕と肩甲帯のケアが抜けたままになる)
  • お風呂で肘だけをピンポイントに温める(前腕全体を温めるほうが効率が良い)

受診の目安

肘の外側の痛みは、テニス肘だけとは限りません。首からの神経症状、腕を通る神経(橈骨神経など)の障害、肘関節そのものの変形など、別の原因で似た場所が痛むこともあります。次のようなサインがある場合は、自己判断せず整形外科で状態を確認していただくのが安心です。

  • 2〜3週間セルフケアをしても痛みがまったく引かない
  • 夜寝ているときも肘がズキズキ痛む
  • 肘が腫れている・熱を持っている
  • しびれが手先まで広がっている
  • 物を持つと手からすべり落ちるようになった

よくある質問

Q1. テニス肘と言われましたが、テニスをしていません。なぜですか?
A. 上腕骨外側上顆炎は、手首や指を伸ばす筋肉の使いすぎで起こる肘の外側の痛みです(※1)。テニスのバックハンドで有名になったため通称がついているだけで、実際にはマウス操作・スマホ・育児・家事の反復動作で発症する方が多い印象があります。

Q2. 冷やすほうがいいですか、温めるほうがいいですか?
A. ズキンと強く痛む急性期は、薄いタオル越しに氷嚢を10〜15分ほど当てて冷やす方法が向いています。落ち着いてきたら、お風呂やホットタオルで前腕まで含めて温めたほうが、血流が戻りやすくなります。

Q3. 肘バンドはつけたほうがいいですか?
A. 動作時に付着部を引っ張る負担を軽くしてくれる補助になります。ただし1日中つけっぱなしにすると、前腕の筋肉が働きにくくなるため、家事やパソコン作業の時間帯だけ使うのがおすすめです。

Q4. どのくらいで良くなりますか?
A. 個人差が大きく、生活動作の見直しと前腕・肩甲帯のケアを続けると、数週間で軽くなる方から数か月かかる方までさまざまです。「早く効く方法」より「地道な引き算」が、結果的に近道になることが多い印象です。

Q5. 整形外科と接骨院、どちらに行けばいいですか?
A. しびれや腫れ、力が入らないなどのサインがある場合は、まず整形外科で状態を確認していただくのが安心です。骨や神経の問題がないと確認できてから、接骨院や理学療法士のいるリハビリ施設で継続的なセルフケアを教わる、という流れがスムーズです。

出典・参考文献

※1 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)|日本整形外科学会

✍️ この記事の執筆者

ふみや|柔道整復師

整形外科クリニックのリハビリ室での臨床経験あり。30代以降の体の不調と向き合ってきた立場から、痛み・こり・姿勢・運動のセルフケアを「やさしく、でも本質を外さず」をモットーに発信しています。

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