やっているのに、効いている気がしない
肩甲骨はがしのやり方を調べて、ストレッチの動画を見ながらやってみた。腕をぐるぐる回して、後ろで手を組んで、肩を上げ下げして。
でも、これで肩甲骨が動いているのかどうかが分からない。
そんな経験はないでしょうか。
肩も腕も確かに動いています。ところが「はがれた」という感覚がまったくない。それで「自分はよほど固まっているんだ」と思い込んでしまう方が少なくありません。
整形外科の現場で意外に感じるのは、施術で肩甲骨まわりをゆるめてもその場だけで、数日で戻ると話される方が多いことです。ほぐし方が足りないのではなく、日常のどこかで元に戻す力が働いている、と考えたほうが自然です。
この記事では、肩甲骨はがしの手順そのものより、なぜ肩甲骨が動かないのかという一段手前のところからお伝えします。
肩甲骨は「はがす」ものではありません
まず、言葉の話から。
肩甲骨は、そもそも背中にくっついている骨ではありません。
肩甲骨は背中の肋骨の上に「浮いている」ような骨で、周囲の筋肉に支えられながら肋骨の上をすべるように動きます。背骨と直接つながる関節を持たず、鎖骨を介して体幹とつながっている、少し変わった骨です。
つまり「はがす」というイメージ自体が、実際の構造とはずれています。分かりやすく言い表した通称で、何かを剥離しているわけではありません。
ここが大事なところで、肩甲骨が動きにくいとき、問題は肩甲骨そのものより「その下の土台」にあることが多いのです。
肩甲骨は肋骨の上をすべります。ということは、土台である肋骨と背骨(胸椎)が動かなければ、肩甲骨だけを動かそうとしても十分な動きが出にくい、ということです。腕を最後まで上げるときには、胸椎が少し伸びる動きと肋骨の動きが組み合わさっています。猫背や巻き肩のように背中が丸まって肩が前に出た姿勢のままでは、肩甲骨のすべる面そのものが動きにくくなります。
もうひとつ、呼吸も土台の一部です。息を吐くと肋骨は少し下がり、吸うと少し広がります。肩甲骨はその上を滑るため、呼吸が浅い状態では動きも小さくなりやすくなります。
ほぐしても数日で戻る背景には、この土台が関わっていることがあります。もちろん筋肉の緊張、日中の姿勢、腕の使い方など複数の要素が重なっていることがほとんどで、原因を1つに絞れるものではありません。
背中まわりの張りについては背中のこりがマッサージで取れない本当の原因でも扱っています。
肩甲骨はがしでありがちな3つの間違い
① 腕は動いているが、肩甲骨は置いていかれている
いちばん多いのがこれです。
腕を大きく回すと、見た目には豪快に動いて見えます。ところが肩の関節だけで回していると、肩甲骨は背中に張りついたままということが起こります。
動かしているのは腕で、肩甲骨は置いていかれている。この状態だと、どれだけ回数を重ねても肩甲骨まわりの動きは変わりにくいままです。
見分け方は簡単で、反対側の手を肩甲骨のふちに当ててみることです。腕を上げたとき、指の下で肩甲骨が少し上や外へ滑るように動けば、一緒に動いています。何も動かなければ、腕だけの動きになっている可能性があります。
② 力いっぱい寄せて、そこで終わっている
「肩甲骨を寄せましょう」と言われて、胸を張って左右の肩甲骨をぎゅっと近づける。ここで止まってしまうパターンです。
肩甲骨は寄せる(内側に引く)だけでなく、離す・上げる・下げる・上向きに回すといった複数の方向に動きます。寄せる動きだけを繰り返しても、動く方向が偏ったままです。
しかも強く寄せ続けると、腰が反ったり首の後ろが詰まったりして、別の負担になることがあります。
③ 痛みや音を「効いている証拠」だと思ってしまう
動かしたときにパキパキ、ゴリゴリと音が鳴ることがあります。この音を「はがれた音」だと受け取って、鳴らしにいってしまう方がいます。
関節や腱が動くときの音は、それ自体では体の状態を判断する材料になりません。音の大きさと、動きの改善は別のものです。痛みをともなわない音なら過度な心配は要りませんが、痛みや引っかかりをともなう音が続く場合は医療機関でご相談ください。
痛みも同じです。伸びている感覚と鋭い痛みは別もので、痛みが出る範囲まで無理に動かすと、かえって周囲が緊張して動きが悪くなることもあります。
とくに肩を上げたときに強い痛みが出る場合は、四十肩・五十肩と呼ばれる状態が関わっていることがあります。この時期に無理に動かすのは向きません(※1)。詳しくは肩が上がらないあなたへにまとめています。
肩甲骨が動き出す3つの動かし方
ここからは実際の手順です。道具は要りません。肩甲骨を柔らかくするには、土台(背骨と肋骨)→ 肩甲骨 → 全体の順に進めるのが近道です。
① 背骨を回す(土台をつくる)
肩甲骨の前に、まず土台から動かします。
- 椅子に浅めに座り、足は肩幅に開いて床につけます
- つま先だけでなく、かかとにも体重が乗っている感覚を確かめます。ここが浮いていると上半身がぐらつき、背骨が回りにくくなります
- 両手を胸の前で軽く組み、息を吐きながら上半身をゆっくり右へ回します
- 行けるところで3秒止め、同じ速さでゆっくり戻します。左も同様に
左右5回ずつ。勢いをつけて回さず、戻すときも力を抜いて落とさないのが要点です。戻す動きも運動のうちで、ここを雑にすると効果が出にくくなることがあります。
腰から回そうとせず、みぞおちのあたりから上をねじるイメージで行ってください。
② 肩甲骨を4方向に動かす
土台がゆるんだら、肩甲骨そのものを動かします。腕で勢いをつけず、肩甲骨が動く感覚を意識してください。
- 上げる:肩をすくめるように真上へ。3秒キープしてゆっくり下ろす
- 下げる:肩の力を抜いて自然に下ろす程度。3秒キープ
- 寄せる:左右の肩甲骨を背中の中央へ。胸を張りすぎず、腰は反らさない
- 離す:背中を軽く丸めて、左右の肩甲骨を外へ広げる
各3回ずつ、ひととおり。寄せる動きだけで終わらせず、離す動きもセットにするのがコツです。日常では離す方向の動きが不足しがちだからです。
なお肩甲骨は実際にはもっと複雑に動きますが、まずはこの4方向を意識できれば十分です。
③ 腕を上げて、肩甲骨を連れていく
最後に、肩甲骨と腕を連動させます。
- 立っても座ってもかまいません。腕を体の横から、ゆっくり真上へ上げていきます
- 途中から肩甲骨が上向きに回りながらついてくるのを感じます。反対の手で確かめてもかまいません
- 上げきったら3秒。下ろすときは上げたときより1〜2秒ゆっくり
5回ほど。首をすくめるように力を入れず、肩甲骨が自然についてくるイメージで行ってください。
どこで感じられれば合っているのか
肩甲骨のあいだで温かさを感じる方もいれば、脇の下や背中の外側、肩の後ろで感じる方もいます。感じる場所には個人差があるので、「肩甲骨の間で感じなければ間違い」とは考えないでください。
何も感じない場合は、動きが小さいか、感覚がつかめていないだけということもよくあります。鏡で横から見る、スマホで動画を撮るなど、目で確認するほうが確実です。
回数の目安は、①②③をひとまとまりにして1日1〜2回、週4〜5回ほど。1回3〜4分で終わります。数をこなすより、1回ごとに動く場所を確かめるほうが役に立ちます。
効果を続かせる3つの習慣
運動そのものより、ここが結果を分けます。
① 30分に1回、10秒だけ肩甲骨を動かす
まとめて5分やるより、こまめに動かすほうが戻りにくいと感じる方が多いです。
回数より、1日の中で肩甲骨が止まっている時間を減らすこと。デスクワークなら、席を立つタイミングで肩を上げ下げするだけでも違います。
② 肩をすくめる時間を減らす
肩甲骨が固まる背景には、無意識に肩が上がったままになっている時間の長さがあります。
代表的なのが、寒い場所、緊張しているとき、そして冷房の効いた部屋です。夏は薄着で肩まわりが冷えやすく、肩をすくめる時間が延びがちです。寒いと感じたら我慢せず一枚羽織ってください。
冷房と肩まわりの関係は冷房で肩こりが悪化する本当の理由で詳しく扱っています。
③ 1日1回、腕を真上に上げる
いまの生活は、腕を頭より上に上げる場面がとても少なくなっています。収納は手の届く高さにまとまり、洗濯物は乾燥機で済むことも増えました。
肩甲骨は腕を上げるときに上向きに回りますが、この動きは使わない期間が続くほど出にくくなっていきます。運動の時間だけ動かして、あとの23時間は上げないままでは、なかなか定着しません。
洗濯物をあえて高い位置に干す、よく使うものを上の棚に戻す。そんな些細な場面でかまわないので、腕が上がる用事を1日1回残しておくと、動きが保たれやすくなります。
なお、背中が丸まったままだと腕は上がりにくくなります。姿勢そのものの整え方は意識しても姿勢が改善しない本当の理由にまとめています。
まとめ
- 肩甲骨は肋骨の上をすべる骨で、はがすものではありません。通称として使われている言葉です
- 肩甲骨が動きにくいとき、土台である背骨と肋骨が動いていないことがよくあります
- 寄せる動きだけでなく、上げる・下げる・離すまでをひととおり動かすことが要点です
肩甲骨はがしのやり方を熱心に調べている方ほど、肩甲骨だけを一生懸命動かそうとしている印象があります。そこを動かしたいのだから当然なのですが、土台が止まったままだと動ける範囲がどうしても狭くなります。
遠回りに見えても、まず背骨を回すところから始める。そのほうが結果的に肩甲骨は動きやすくなることが多いです。
今日はまず、椅子に座って上半身を左右に5回ずつ回すところからで十分です。
セルフチェック
- 腕を上げたとき、反対の手で触れても肩甲骨が動く感じがしない
- 背中で手を組もうとすると、片側だけ届きにくい
- 肩をほぐしてもらっても、数日で元に戻る
- 上を向く・背中を反らせる動きが少ない一日を過ごしている
- 気づくと肩がすくんだ姿勢になっている
当てはまる数が多いほど硬い、という表ではありません。当てはまった項目が、そのまま動かしはじめやすい場所です。肩甲骨が動き出す3つの動かし方から、1つだけ試してみてください。
やりがちなNG
- 音を鳴らすことを目的にする(音は状態の判断材料になりません)
- 寄せる動きだけを繰り返す(離す方向も必要です)
- 痛みが出る範囲まで無理に動かす
- 反動をつけて勢いよく回す(戻す動きも運動のうちです)
- 肩が上がらないほど痛むのに続ける
受診の目安
以下に当てはまる場合は、自己判断で続けずに医療機関へご相談ください。
- 腕が上がらない、髪を結ぶ・服を着る動作がつらい
- 夜間や明け方に肩の痛みで目が覚める
- 腕や手にしびれがある、力が入りにくい、物を落とすことが増えた
- 肩や腕に腫れ・熱感がある、発熱をともなう
- 転倒や強い衝撃のあとから痛みや動かしにくさが続いている
よくある質問
Q1. 肩甲骨はがしは毎日やってもいいですか?
強い負荷をかけない範囲の動きであれば、毎日行っても差し支えないことが多いです。ただし翌日まで張りが残る場合は間隔をあけてください。回数より丁寧さが役に立ちます。
Q2. どのくらいで変化を感じますか?
動かしやすさは早い方だと数日で変わります。ただし日常の姿勢や使い方が背景にある場合、それが変わらないと戻りやすくなります。数週間から数か月かかることもあり、個人差の大きい部分です。
Q3. 四十肩でも肩甲骨はがしをしていいですか?
痛みが強い時期は、無理に動かさないほうがよいとされています(※1)。まず医療機関で状態を確認していただき、動かしてよい時期・範囲を相談してからにしてください。
出典・参考文献
※1 日本整形外科学会「五十肩(肩関節周囲炎)」