動いた瞬間、腰が固まって動けなくなった
顔を洗おうと前かがみになった瞬間。落ちたものを拾おうとした瞬間。あるいは、ただくしゃみをしただけ——。次の瞬間、腰が固まって息をするのも怖くなる。ぎっくり腰の対処法を検索している方の多くは、まさにその渦中にいるのではないでしょうか。
靴下が履けない。寝返りが怖い。トイレに立つまでに何分もかかる。痛みそのものより、「このまま動けなくなるのでは」という不安のほうがつらい——そんな声をよく聞きます。
そして多くの方が、まず「とにかく安静にしよう」と考えます。
ですが、この「とにかく安静」こそ、発症直後にいちばん気をつけたいところです。
ぎっくり腰でいちばん怖いのは痛みではない
ぎっくり腰は、医学的には急性腰痛症(きゅうせいようつうしょう)と呼ばれます。その後の経過については、専門の学会から次のように示されています。
> 急性腰痛患者の自然経過は,自然軽快を示すことが多く,概ね良好である。(※1)
つまり、急に動けなくなるほど痛くても、時間とともに落ち着く方が多いということです。ただし全員が同じ経過をたどるわけではありません。後半の「受診の目安」に当てはまる場合は、様子を見る前に医療機関で確認してもらってください。
そのうえで押さえておきたいのが、次の一文です。
> 急性腰痛に対しては,安静よりも活動性維持の方が有用である。(※1)
かつては「ぎっくり腰は数日寝て過ごす」が一般的でしたが、現在は考え方が変わってきています。日本整形外科学会・日本腰痛学会が監修する腰痛診療ガイドラインでも、「腰痛の治療は安静よりも活動性維持のほうが有用か」という問いが立てられています(※2)。
ここで誤解してほしくないのは、これは「痛みを我慢して動きなさい」という意味ではないということです。活動性維持とは、痛みの出ない範囲でいつもの生活を細く続ける、という意味合いです。
動かない時間が長くなると、痛みへの不安から動作を避けるようになり、体を動かすこと自体が怖くなっていくことがあります。
整形外科クリニックの現場でよく見たのは、痛みそのものは軽くなっているのに、腰をかばう動き方だけが残ってしまう方でした。前かがみを避け、腰を固めたまま生活する。それが続くと、今度は別のところに負担が移っていきます。
ぎっくり腰が起きるときに重なりやすい3つの要素
先にお伝えしておきたいことがあります。ぎっくり腰は、原因を1つに決められないことがほとんどです。 筋肉・靱帯・椎間板・背骨の後ろ側にある小さな関節など複数の組織が関わり、画像検査をしても特定しきれないことも少なくありません。
そのうえで、発症したときに重なりやすい要素を3つ挙げます。「これが原因だった」と決めつけるためではなく、痛みが落ち着いたあとに振り返る手がかりとして読んでください。
① その日までの数週間で、腰に負担がたまっていた
発症の直前に特別なことをしていない方も多くいます。よく聞くのは「先週から仕事が忙しかった」「連日子どもを抱えていた」「久しぶりに長時間運転した」といった話です。
きっかけになった動作は、最後のひと押しにすぎないことが多いのです。だからこそ「くしゃみで」「靴下を履こうとして」といった、力の要らない動きでも起こります。
② 前かがみのときに、腰の動きが大きくなっていた
前かがみでは、股関節や背骨などが協調して動きます。股関節の動きが少ない、あるいは動かし方に偏りがあると、腰の動きが大きくなることがあります。
ただしこれは「股関節が硬いからぎっくり腰になる」という意味ではありません。動作のクセが関係することもある、という程度に受け取ってください。この視点は太もも裏が硬いと腰が痛くなる理由や反り腰が腰の重さを生む理由ともつながります。
③ 急な動作に、体が対応しきれなかった
くしゃみ・振り向く・つまずくといった急な動きでは、お腹や背中まわりの筋肉だけでなく、股関節や背骨も含めた体全体が素早く対応する必要があります。その準備が間に合わないことがある、と考えられています。
発症直後から数日を乗り切る3つの方向性
① 横になり続けず、こまめに姿勢を変える
痛みが強い最初の数時間から半日は、楽な姿勢で休んで構いません。ただし、何日も横になり続けないことがポイントです。
目安は「1〜2時間に1回、痛みの出ない範囲で姿勢を変える」こと。立ち上がって数歩歩ければ十分ですし、難しければ寝たまま向きを変えるだけで構いません。
② 痛みが出にくい起き方・立ち方を確保する
同じ動作でも、順番を変えるだけで痛みがぐっと減ることがあります。
起き上がり方
- 仰向けのまま、両膝を立てる
- 体をひねらず、丸太を転がすように体全体で横向きになる
- 下側の腕でベッドを押しながら、両足を同時にベッドの外へ下ろす
- 足の重みを使って、上体を起こす
ひねりと前かがみが同時に入ると痛みが出やすいので、「ひねらない」「体をひとかたまりで動かす」の2つを意識してみてください。
立ち上がり方・座り方
立ち上がるときは、足裏全体で床を踏み、かかとにも体重を残すようにすると、お尻や太ももを使って立ち上がりやすくなります。見落とされがちなのが戻り方です。座るときはお尻から先に座面へ近づけるように下ろすと、動作がゆっくりになり、腰への衝撃が減ります。
膝や股関節を曲げる余裕が出てきたら、ヒップヒンジのやり方の股関節から折る動きが、床のものを拾う場面で役に立ちます。
③ 冷やす・温めるは「楽に感じるほう」で構わない
冷やす・温めるのは、症状をやわらげるために本人が楽に感じるほうを選ぶ程度で構いません。どちらかが必ず治り方を良くする、というものではありません。
どちらの場合も、タオルなどを介して短時間にとどめてください。皮膚の感覚が鈍い方や糖尿病がある方は、低温やけどや凍傷を避けるため、とくに短めにしてください。
今日からできる3つのアクション
① 1〜2時間に1回、痛くない範囲で立つ
「歩かなければ」と気負う必要はありません。トイレに行く、コップに水を汲む。それで十分です。大切なのは距離ではなく、体を起こす回数です。
② 寝る姿勢をあらかじめ作っておく
痛みが強い時期は、休む姿勢を用意しておくと夜が楽になります。
- 横向き:痛い側を上にして、両膝を軽く曲げ、膝の間にクッションをはさむ
- 仰向け:膝の下に丸めた布団やクッションを入れ、膝を軽く曲げた状態にする
どちらが合うかは人によって違います。両方試して、寝返りのときに痛みが少ないほうを選んでみてください。寝具まわりは腰痛が治らない人へ|環境を整える4つの道具もご覧ください。
③「今日やらないこと」を1つだけ決める
すべてを我慢する必要はありません。ただし、痛みが出やすい時期に避けたい動きが1つあります。前かがみとひねりが同時に入る動作です。
- 床に置いたものを、体をひねって拾う
- 洗濯かごを持ったまま向きを変える
- 中腰のまま、横にある荷物を引き寄せる
痛みが出やすい時期は、こうした動作をなるべく避け、先に体ごと正面を向いてから、股関節を折ってかがむようにしてみてください。
まとめ
ぎっくり腰の対処法として、発症直後から数日で押さえたいのは次の3点です。
- 横になり続けない——痛みの出ない範囲で、こまめに体を起こす
- 動き方を確保する——ひねらず、体をひとかたまりで。立つときはかかとにも体重を残す
- 前かがみ+ひねりの同時動作をなるべく避ける——先に体ごと正面を向いてからかがむ
急に動けなくなると「一生このままなのでは」と不安になりますが、急性の腰痛は時間とともに落ち着いていく方が多いとされています(※1)。
必要なのは、完全に止まることでも無理に動くことでもなく、痛みの出ない範囲を毎日少しずつ広げていくことです。 今日できたことが昨日より1つ増えていれば、十分に前へ進んでいます。
セルフチェック
- 寝返りを打つときに、腰に響いて目が覚める
- 靴下や下着を履く動作で、痛みが強く出る
- 立ち上がってからの最初の数歩がつらい
- 咳やくしゃみをすると腰に痛みが走る
- 発症前の1〜2週間、いつもより腰に負担がかかっていた心当たりがある
当てはまる数が多いほど重い、という表ではありません。急に痛めた直後なら、まず発症直後から数日を乗り切る3つの方向性をご覧ください。なお、このチェックに関係なく、受診の目安に当てはまるものがあれば、そちらが先です。
やりがちなNG
- 「とにかく安静」と決めて、何日もほとんど横になって過ごす
- 痛みを我慢して、いつも通りに動こうとする
- 痛む場所を強く押したり、揉んだりする
- 「伸ばせば楽になる」と思い、痛みが出る方向に無理にストレッチする
- 腰をまっすぐ固めたまま、体をひねって物を取る
受診の目安
次のいずれかに当てはまる場合は、様子を見ずに整形外科などの医療機関へ相談してください。
- 排尿・排便がしづらい、もれる、または股のまわり(いすの座面に当たる部分)の感覚が鈍い
- 足に力が入りにくい、しびれが両足に広がってきている
- 発熱をともなう腰の痛みがある
- 転倒や尻もちなど、はっきりした強い衝撃のあとに痛みが出た
- 安静にしていても激しく痛む、夜間に痛みで目が覚める、体重が減っている
とくに上の2つ——排尿・排便の異常、股まわりの感覚の低下、足に力が入りにくい——は、できるだけ早く受診してください。 時間が経つほど回復に影響することがあります。
よくある質問
Q1. ぎっくり腰はどのくらいで良くなりますか?
個人差は大きいのですが、急性の腰痛は自然に軽快していくことが多いとされています(※1)。多くの場合、強い痛みは数日から数週間で改善していきます。ただし2〜3週間たっても変化がなければ、一度確認してもらうことをおすすめします。
Q2. 冷やすのと温めるのはどちらが良いですか?
どちらかが必ず治り方を良くする、というものではありません。 症状をやわらげる目的で、短時間当ててみて楽に感じるほうを選んで構いません。皮膚の感覚が鈍い方や糖尿病がある方は、低温やけどや凍傷を避けるため、時間を短めにしてください。
Q3. コルセットは使ったほうが良いですか?
痛みが強い時期に、動きやすくする目的で短期間使うのは選択肢になります。支えがあると動きやすくなり、活動量を保ちやすいためです。ただし、装着する期間や使い方は症状によって異なります。長く使い続けるかどうかは自己判断せず、医療機関で相談してください。
Q4. マッサージやストレッチはしても良いですか?
痛みが強い最初の数日は、強く押す・揉む・痛い方向に伸ばすのは避けたほうが無難です。痛みが落ち着いてきてから、痛みの出ない範囲で少しずつ動かしていく順番が向いています。
Q5. お風呂には入って良いですか?
湯船をまたぐ動作自体がつらい時期は、無理をせずシャワーで構いません。数日たってこわばりが強い時期は、温まることで動きやすくなる方もいます。体調や痛みの出方に合わせて選んでください。
Q6. 一度なると癖になりますか?
「癖になる」というより、起きたときの背景がそのまま残っていると、また同じ場面で起こりやすいと考えるほうが実際に近いです。
その背景も1つではありません。運動不足、長時間座りっぱなし、急な負荷、睡眠不足や疲労、動作への不安、過去の腰痛など、複数の要素が重なります。痛みが落ち着いてから、思い当たるものを1つずつ減らしていくのが現実的です。お尻や足のしびれをともなう場合は坐骨神経痛がデスクワーカーを襲う本当の原因もあわせてどうぞ。
出典・参考文献
※2 腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)/日本整形外科学会・日本腰痛学会 監修(Mindsガイドラインライブラリ)