靴を脱いだ瞬間、ホッとしていませんか
夕方、玄関で靴を脱いだ瞬間に「はぁ」と息が漏れる。足の親指の付け根が痛いのに、忙しくてそのままにしている——そんな方は少なくありません。
痛いのは、たいてい親指の付け根の内側です。靴に当たるところが赤くなっていたり、皮膚が硬くなっていたり。ひどくなると、靴を履いていないときにもうずくようになります。
そして多くの方が、ここでこう考えます。「外反母趾だな」「靴が悪かったんだ」と。
ですが、その2つで話を終わらせてしまうと、対策がずれることがあります。
その痛み、外反母趾と決まったわけではありません
まず押さえておきたいことがあります。親指の付け根が痛いからといって、外反母趾とは限りません。
同じ場所が痛くなるものに、親指の付け根の裏側にある小さな骨(種子骨)のトラブル、親指を反らしにくくなるもの(強剛母趾など)、尿酸が関係する炎症などがあります。急に赤く腫れて熱を持つ場合は、別の原因が関わっていることもあります。
ここに挙げたのはあくまで例で、ご自分で名前を突き止める必要はありません。見分けは、正直なところ見た目だけでは難しいところです。痛みが続くようなら、自己判断で対策を始める前に、一度整形外科で確認してもらうほうが遠回りになりません。
そのうえで、外反母趾についてです。日本整形外科学会は、足のアーチ(土踏まずなどの弓なりの構造)に触れたうえで、外反母趾を次のように説明しています。
> 外反母趾ではこれらのアーチが崩れて扁平足になると、中ほどにある母指の中足骨が扇状に内側に開き、それから先の指は逆に靴で外側に圧迫されておこります(※1)
つまり、親指だけの問題ではなく、足全体のバランスが関わっているという見方です。親指の先が人差し指のほうへ「くの字」に曲がり、付け根の内側の突き出したところが痛む。これが、学会が症状として挙げている形です(※1)。
ただし、アーチの状態は関係する要素の一つであって、「扁平足だから外反母趾になる」という単純な話ではありません。足の形、靴、関節や靱帯の状態など、いくつもの要素が重なります。
そして、ここがいちばんお伝えしたいところです。
変形の大きさと、痛みの強さは必ずしも一致しません。
見た目にはっきり曲がっていても痛みをほとんど訴えない方もいれば、変形は軽いのに歩くのがつらいという方もいます。整形外科クリニックの現場でも、この差はよく見かけました。だからこそ、見た目の角度ではなく、いま痛みが出ている場面のほうを手がかりにするほうが現実的です。
足の親指の付け根に負担が集まる3つの要素
原因を1つに決められることは、あまりありません。いくつかが重なって、親指の付け根に負担が集まっていることがほとんどです。
① 靴の形が足に合っていない
学会は、一番の原因は靴を履くこととしたうえで、幅の狭いつま先が細い靴で変形すること、ヒールの高い靴では付け根にかかる力が増えて変形が強くなることを挙げています(※1)。
ただし、靴だけのせいにすると先に進めません。同じ靴を履いていても、痛くなる方とならない方がいるからです。
② もともとの足の形や体質
学会は、10歳代で起こる場合の要因として「母指が人差し指より長い」「生まれつき扁平足ぎみ」を、中年期の要因として履物・肥満・筋力低下を挙げています(※1)。
このうち足の形は、自分で変えられる部分ではありません。変えられないものに悩むより、変えられるところ(靴・歩く量・体の使い方)に手をつけるほうが建設的です。
③ 歩くときの足の使い方
歩くときは、かかとから接地して足裏全体で体重を受け、最後に親指のあたりで軽く床を押して進む流れになります。
足の指が浮いていたり、足の外側に体重が偏っていたりすると、足全体の体重のかかり方が変わります。こうした「足の使い方」も、痛みを考えるときの一つの手がかりになります。
立っているときも、かかとだけ・つま先だけ・外側だけに体重が偏っていないかを確かめてみてください。「どこかに正しく乗せる」というより、偏りに気づくことが目的です。
足の使い方という共通テーマでは、片足立ちがグラつく理由(足裏・足首・股関節)や朝の一歩目に足の裏が痛い(足底・ふくらはぎ)もつながる話です。
痛みをやわらげる3つの方向性
優先順位があります。靴と歩く量の調整が先で、足指の運動は最後です。順番を逆にすると、負担をかけたまま運動を足すことになります。
① まず靴を見直す
学会が挙げている履物の選び方はシンプルです。
> 母指のつけ根はフィットして先はゆったりとした履物を選びます(※1)
付け根はゆるすぎず、指先には余裕がある。 この2つが同時に満たされているかを確かめてみてください。「大きめを買えばいい」と考えて全体をゆるくすると、靴の中で足が前へすべり、かえって指先が詰まることがあります。
② 痛みが強い時期は、量を調整する
痛みが強い時期に、痛みを我慢して歩く距離を増やす必要はありません。 「歩かない」ではなく、痛みが増えるほどには負荷を上げない、という考え方です。
学会は、親指と人差し指の間に装具をはめる方法も挙げています(※1)。ただし合う・合わないがあり、使い方や期間は状態によって変わります。自己判断で長く使い続けるより、整形外科などの医療機関で相談してから取り入れるほうが安心です。
③ 足の指を「開く」練習をする
学会は、足の指をすべて開くグー・チョキ・パーの体操や、両足の親指に輪ゴムをかけて足先を開く体操を紹介しています(※1)。
ポイントは「握る」より「開く」にあります。
輪ゴムの体操は、文章だけだと形が想像しにくいので、やり方を補足します(手順の細部は学会の記述ではなく、現場でお伝えしている一例です)。
- 椅子に座り、両足のかかとを床につけて軽く合わせる
- 両足の親指に、太めの輪ゴムを1本かける
- かかとを合わせたまま、つま先だけを左右に開く
- 輪ゴムが軽く張ったところで5秒ほど止め、ゆっくり戻す
親指が外側へ軽く引かれる感じがあれば十分です。輪ゴムは細くて強いものを避け、軽く張る程度にしてください。指先の色が変わる、しびれるといったことがあれば、すぐ外してください。
ただし、これらは変形した骨の位置を元に戻すためというより、足の指を動かす習慣をつくるための運動と考えてください。
もう1つ、分けて考えてほしいことがあります。体操として意識的に指を動かす場面と、ただ立っているときの足の状態は、別のものです。
体操の時間は、指を開いたり閉じたりと大きく動かして構いません。一方で、立っているときにずっと指で床をつかみ続けているなら、片足立ちの記事でお伝えしたとおり、まずは力を抜くほうが先になります。指を浮かせる必要はなく、握り込まないだけで十分です。
強さや回数を競う必要はありません。痛みが出る範囲までやる必要もありません。
今日からできる3つのアクション
① いちばん長く履く靴を1足だけ見直す
全部を買い替える必要はありません。いちばん長い時間履いている1足を、付け根のフィットと指先の余裕という2点で確かめてみてください。1日の中で長く履く靴を見直すだけでも、足にかかる負担を減らせる可能性があります。
② 痛かった日を記録しておく
「いつ痛くなったか」をメモしておくと、負担がかかる場面の見当がつきやすくなります。
- どの靴を履いた日か
- どのくらい歩いた日か
- 立ちっぱなしだった日か
痛みの出方には、たいてい傾向があります。 それが見えてくると、減らせる場面がはっきりします。
③ 痛みがなければ、足の指を広げる
痛みが落ち着いているときに、足の指を動かす時間を少しだけ作ります。痛みがなければ、手の指を足の指の間に軽く入れて広げる、グー・チョキ・パーをゆっくりやる。1日1〜2分で構いません。
お風呂上がりは足が動かしやすい時間ですが、温めること自体が変形に働きかけるわけではありません。あくまで「動かしやすいタイミング」として使ってください。
痛みが出る手前までにとどめます。強く広げるほど効くというものではありません。
まとめ
足の親指の付け根が痛いとき、押さえたいのは次の3点です。
- 外反母趾と決めつけない——同じ場所が痛くなるものは他にもある。続くなら一度確認を
- 靴と歩く量から見直す——足の形は変えられなくても、履くものと負荷は調整できる
- 足の指は、鍛えるより動かす——握る力を増やすことが目的ではない
変形の見た目ではなく、痛みが出る場面を手がかりにしてください。 どの靴で、どのくらい歩いたときにつらいのか。そこが分かれば、減らせる負担が見えてきます。
靴を脱いだときの「はぁ」が、少しずつ小さくなっていけば十分な変化です。
セルフチェック
- 靴を脱いだときに、親指の付け根の内側が赤くなっている
- 夕方になると、朝履けた靴がきつく感じる
- 親指の付け根の皮膚が硬くなってきた
- 立っているとき、足の指が縮こまって床をつかんでいる
- 靴を履いていないときにも、うずくことがある
当てはまる数が多いほど重い、という表ではありません。また、当てはまったからといって外反母趾と決まるものでもありません。自己判断の材料ではなく、受診したときにそのまま伝えるメモとして使ってください。まずは痛みをやわらげる3つの方向性の、靴の見直しから始められます。
やりがちなNG
- 痛いのを我慢して、同じ靴を履き続ける
- 「大きめならラク」と考えて、全体がぶかぶかの靴を選ぶ
- 変形を戻そうとして、親指を強く引っぱる
- 痛みが強い時期に、我慢して歩く距離を増やす
- 自己判断でサポーターを長期間つけ続ける
受診の目安
次のいずれかに当てはまる場合は、セルフケアの前に医療機関へ相談してください。
- 急に赤く腫れて熱を持ち、じっとしていても強く痛む
- 足にしびれや、力の入りにくさをともなう
- 変形が短期間で進んできている
- 痛みで歩くのがつらく、靴を履くこと自体が難しい
- 糖尿病がある方で、足に傷・変色・感覚の鈍さがある
とくに1つ目——急に赤く腫れて熱を持つ場合は、外反母趾とは別の原因が関わっていることがあります。 様子を見ずに医療機関を受診してください。
よくある質問
Q1. 変形は元に戻りますか?
いったん進んだ骨の並びが、体操や装具だけで元どおりになるとは考えにくいのが正直なところです。ただし、目指すのは見た目を戻すことではなく、痛みなく歩ける状態に近づけることです。痛みを減らし、歩きやすくするためにできることはあります。
Q2. サポーターは使ったほうが良いですか?
学会も、親指と人差し指の間に装具をはめる方法を挙げています(※1)。ただし合う・合わないがあり、使い方や期間は状態によって変わります。痛みが出ている場合はとくに、自己判断で長く使い続ける前に、整形外科などの医療機関で相談してみてください。
Q3. 足の指を鍛える運動はやったほうが良いですか?
学会が紹介しているのは、指をすべて開くグー・チョキ・パーの体操と、両親指に輪ゴムをかけて足先を開く体操です(※1)。「開く」方向が中心である点がポイントです。強く握り込む力を増やすことが目的ではなく、変形そのものを戻すための運動でもありません。
Q4. ヒールはもう履けませんか?
痛みが落ち着いているなら、ゼロか百かで考えなくても大丈夫です。 履く日と履かない日を分ける、通勤は別の靴にして現地で履き替える。こうした調整のほうが現実的で、続きます。
ただし痛みが強い時期は、付け根への負担が少ない靴を優先してください。
Q5. 手術が必要になるのはどんなときですか?
学会は「痛みが強く、靴を履いての歩行がつらくなると手術をします」としています(※1)。靴の見直しなどの対策を続けても痛みや歩きにくさが強く残る場合に検討されるものとお考えください。判断は医師が行うので、そこまでの状態であれば、まず整形外科で相談してください。