立ち上がる一歩目に、ズキッとしませんか
椅子から立ち上がった瞬間。歩き出した最初の数歩。足の付け根が痛いと感じて、思わず動きが止まる。
しばらく歩くと薄れるので、そのままにしている方は多いと思います。靴下を履くときに引っかかる、あぐらが組みにくくなった——そんな変化も、忙しいと後回しになります。
そして「股関節が硬いからだろう」と考えて、ストレッチを始める。
ですが、伸ばす前に確かめてほしいことがあります。
足の付け根には、股関節があります
見落とされがちなのですが、足の付け根(鼠径部)には、股関節があります。日本整形外科学会は、変形性股関節症についてこう書いています。
> 股関節は鼠径部(脚の付け根)にあるので、最初は立ち上がりや歩き始めに脚の付け根に痛みを感じます(※1)
「立ち上がり」「歩き始め」という場面まで、はっきり書かれています。冒頭で挙げた場面と重なった方もいるのではないでしょうか。
ただし、これは変形性股関節症という特定の状態についての説明です。足の付け根が痛いからといって、すべてがそれに当てはまるわけではありません。
足の付け根の痛みには、筋肉や腱、腰から来るもの、鼠径部まわりのものなど、さまざまな背景があります。 この記事では、そのなかでも見落としたくない股関節の問題に触れながら、まず自分で確認できるところを整理します。
ただ、筋肉の話だけで片づけてしまうと、関節そのものへの負担が見過ごされることがあります。
足の付け根の痛みは、股関節からのサインであることがあります。
整形外科クリニックの現場でも、「硬いだけだと思って伸ばしていた」という方はいました。伸ばすこと自体が悪いのではなく、伸ばすだけでは減らせない負担がある、ということです。
足の付け根に負担が集まる3つの要素
原因を1つに決められることは、あまりありません。どこを確かめるか、という整理として読んでください。
① 股関節そのものの状態
痛みが動いたときだけでなく、じっとしていても痛む・夜に痛みで目が覚めるというところまで来ているなら、状態が変わってきているサインです。
もう1つ、痛み以外の手がかりがあります。「やりにくくなってきたこと」です。
- 足の爪が切りにくい
- 靴下が履きにくい
- 階段や車の乗り降りで、手すりや支えが欲しくなる
こうした変化は、痛みより先に気づかれることもあります。
ただし、ここに挙げた場面が当てはまっても、それだけで関節に変形が起きていると決まるわけではありません。学会も、診断はレントゲン写真を撮って確定するとしています(※1)。当てはまる項目があったときにできるのは自分で判断することではなく、受診の材料として持っていくことです。心当たりがあるなら、ストレッチより先に整形外科などの医療機関で一度確認してもらうほうが確実です。
② 前側の筋肉の使い方
座っている時間が長いと、股関節は曲がった姿勢を長く取ることになります。立ち上がるときに股関節の前側に張りや違和感を感じる場合は、こうした姿勢や周囲の筋肉が関係していることもあります。
この話は股関節の違和感が治らない本当の原因で詳しく書きました。ただし、筋肉だけの話にしないというのが今回の記事の立場です。
③ 深く曲げる動作の積み重ね
股関節を深く曲げる場面は、日常にたくさんあります。
- 低い椅子やソファから立ち上がる
- 床にあぐらで座る
- 車の乗り降り
- しゃがんで物を取る
一つひとつは短い動作ですが、1日に何十回と繰り返されます。動作の深さだけでなく、どのくらいの頻度で繰り返しているかも、負担を考えるうえで大切です。
伸ばす前に、減らす3つの方向性
学会は変形性股関節症と診断された場合について、まず「負担を減らして大事に使う」ことが大切だとしています。そのうえで、どういう使い方をすると痛みが強くなるかを自分で観察し、「日常生活」と「痛みを悪くしない使い方」をマッチさせることを挙げています(※1)。
これは診断がついた方に向けた説明であって、足の付け根が痛い人すべてに当てはめる話ではありません。ただ、痛む動作を見つけて回数を見直すという考え方そのものは、原因がはっきりする前でも試せます。
伸ばすより先に、減らす。 ここから先は学会の記述そのものではなく、この記事からの提案です。
① 痛みを悪くしない使い方に合わせる
まず、痛みが出る動作を1日のうちで何回しているかを見てみてください。減らせる回数が必ずいくつか見つかります。
体重が多めの方なら、その分も股関節にかかる負担です。減らせるなら、そこも一つの手になります。
そして杖です。歩くと痛みが強く出る方では、杖を使うことで股関節への負担を減らせる場合があります。 全員に必要という話ではありませんが、「まだ早い」と決めてしまう前に、負担を減らす助けになる道具という見方もあると知っておいてください。
② 動かし方を選ぶ
「動かさないほうがいい」という話ではありません。痛みがあると、どうしても歩かなくなります。動かない時間が続けば、支える力のほうが落ちていきます。
学会も、負担の少ない運動としてこう挙げています。
ただしここに、見落としやすい注意が添えられています。
> 水中歩行や水泳(平泳ぎを除く)を週2,3回(※1)
平泳ぎは除かれています。 ただし、なぜ除かれているのかは同じページには書かれていません。
断定はできませんが、良かれと思って選んだ運動が、その状態には向かないこともある——確かめてから始める理由の一つにはなります。
③ 伸ばすなら、痛みの出ない範囲で
ストレッチが無意味なのではありません。順番と範囲の問題です。
運動やストレッチは、どうしても痛みを誘発してしまうことがあります。だからこそ慎重に始めて、少しずつという順番になります。
痛みが出るところまで伸ばす必要はありませんし、痛みが強い時期に無理に広げる場面でもありません。柔軟性を整えたい方は股関節が硬い本当の原因と柔らかくする3方向ケアを参考にしつつ、痛みが出る手前までにとどめてください。
今日からできる3つのアクション
① 痛む場面を書き出す
いちばん役に立つのがこれです。次の場面のうち、どれで痛むかをメモしてみてください。
- 立ち上がる最初の一歩
- 歩き始めてしばらく
- 靴下を履くとき・爪を切るとき
- 階段や車の乗り降り
- 夜、寝ているとき
受診するときにも、そのまま伝えられます。 「なんとなく痛い」より、はるかに話が進みます。
② 座面を高くする
低い椅子やソファ、床から立ち上がるときには、股関節を深く曲げる必要があります。
座布団を1枚足す、高さのある椅子を1つ用意する。それだけで、1日の曲げる深さが変わります。環境を変えるほうが、意識を変えるより続きます。
③ 深くしゃがむ場面を1つだけ減らす
すべてをやめる必要はありません。いちばん回数が多い1つを変えてみてください。
- 床の物を拾うとき、片膝をつくなど、深くしゃがみ込まない方法を選ぶ(膝に痛みがある方は無理のない形で)
- 洗濯物を低い位置から取り出さず、かごを台に載せる
- 靴を履くとき、椅子に座る
前かがみになる動作そのものが不安な方は、ヒップヒンジのやり方もあわせてご覧ください。
まとめ
足の付け根が痛いとき、押さえたいのは次の3点です。
- 足の付け根は股関節の場所——筋肉の話だけで片づけない
- 伸ばすより先に減らす——痛む動作の回数から見直す
- 痛む場面を記録する——立ち上がり・歩き始め・靴下・階段・夜間
痛みが出る場面が分かれば、減らせる回数が見えてきます。
立ち上がる一歩目が、少しずつ軽くなっていけば十分な変化です。
セルフチェック
- 立ち上がる最初の一歩で、足の付け根が痛む
- 歩き始めてしばらくすると、痛みが薄れる
- 靴下を履く、爪を切るのが以前より難しい
- 階段や車の乗り降りで、手すりや支えが欲しくなった
- あぐらが組みにくくなった
当てはまる数が多いほど状態が重い、という表ではありません。また、当てはまったからといって特定の状態だと決まるものでもありません。自己判断の材料ではなく、受診したときにそのまま伝えるメモとして使ってください。
やりがちなNG
- 「硬いだけ」と決めて、痛みが出るまで伸ばす
- 痛む動作の回数を数えないまま、ストレッチだけ増やす
- 痛みが強い時期に、深くしゃがむ動作を練習する
- 歩くと痛むのに、杖などの選択肢を検討しないまま痛みをかばって歩き続ける
- 良さそうな運動を、自分の状態に合うか確かめずに始める
受診の目安
次のいずれかに当てはまる場合は、セルフケアの前に整形外科などの医療機関へ相談してください。
- じっとしていても痛む、夜寝ていても痛みで目が覚める
- 足の付け根にしこりや膨らみがある、押すと強く痛む
- 転倒など、はっきりした衝撃のあとに痛みが出て、体重をかけられない
- 足の付け根の痛みに、発熱や体調のすぐれなさをともなう
- 足のしびれや、明らかな力の入りにくさをともなう
とくに1つ目——常に痛む、夜間に痛むという状態は、動いたときだけ痛む段階とは別です。 様子を見ずに相談してください。
2つ目のしこりや膨らみは、股関節以外の原因も考えられます。 この場合も自己判断せず、医療機関で確認してもらってください。
よくある質問
Q1. 何科に行けばいいですか?
足の付け根の痛みで、動いたときに出るタイプなら整形外科が入口になります。立ち上がりや歩き始めに出るなら、なおさらです。
ただし、しこりや膨らみがある場合は股関節以外の原因も考えられるので、その旨を伝えて相談してください。
Q2. ストレッチはやめたほうがいいですか?
やめる必要はありません。順番の問題です。 痛みが出るまで伸ばすのではなく、痛みが出る手前までにとどめてください。
そして、伸ばすことと並行して負担を減らすほうに手をつけると、変化を感じやすくなる方もいます。強度は、慎重に始めて少しずつ上げていってください。
Q3. 歩いたほうがいいですか、休んだほうがいいですか?
どちらか一方ではありません。 本文でも触れたとおり、負担の少ない運動として水中歩行や水泳(平泳ぎを除く)が挙げられています。
陸上を長く歩くと痛みが増える方でも、水中なら続けられることがあります。痛みが増えない範囲を探すという考え方です。
Q4. 杖を使うのは大げさでしょうか?
大げさではありません。 変形性股関節症の保存療法でも、杖は選択肢のひとつに挙げられています。
「まだ早い」と我慢して痛みをかばって歩くと、別のところに負担が移ることがあります。関節を守る側の選択肢として考えてみてください。
Q5. 痛みが引いたら、元の生活に戻していいですか?
一気に元に戻さないことが大切です。 痛みが落ち着いてきたら、避けていた動作を痛みの様子を見ながら少しずつ戻していきます。
戻してみて痛みが出るなら、そこはまだ早いということです。ずっと避け続ける必要があるとは限りません。
痛みが引いたあとにどこまで戻してよいかは、受診しているなら医師に確認するのが確実です。