運動会の翌週、整形外科に来る人が増えます

9月から10月にかけて、運動会のシーズンがやってきます。保護者競技のリレー、玉入れ、綱引き。「久しぶりに全力で走った」という方も多いはずです。

そして翌週、整形外科クリニックでは、「運動会で久しぶりに走ったら、太ももの裏が痛くなった」という方が増えます。多いのは太ももの裏とふくらはぎです。

ご本人はたいてい、こうおっしゃいます。「準備運動もしたんですけどね」。

当日の準備運動は、やらないよりずっといいのですが、それだけで足りるとは限りません。

肉離れは、その瞬間がはっきりしていることが少なくありません

肉離れは、筋肉の一部が急に強く引き伸ばされたり、強い力がかかったりして損傷する状態を指します。筋肉痛のように「使いすぎて後から出てくる痛み」とは、起こり方が違います。

多くの場合、その瞬間がはっきりしています。「ブチッといった」「後ろから蹴られたと思った」という表現をよく聞きます。走り出した直後や、急に方向を変えたときが多いです。

つまり、こういうことです。

肉離れは、痛みが出た瞬間がはっきりしていることが少なくありません。だから「痛くなってから加減しよう」が効きにくいのです。

起きやすい場所は、太ももの裏、ふくらはぎ、太ももの前あたりです。ただし、痛み方だけで見分けるのは簡単ではないので、ご自分で「これは肉離れだ」と決める必要はありません。

整形外科クリニックの現場で感じるのは、運動会で肉離れをされる方の多くが、普段まったく運動をしていないわけではないということです。歩いてはいるし階段も使っている。ただ、「全力で走る」という動作だけが何年も抜けているという方が目立ちます。

大人が運動会で肉離れしやすい3つの理由

① 走り方の記憶と、今の体にひらきがある

いちばん大きいのがこれだと感じています。

体は久しぶりでも、走り方の記憶は残っています。だから頭では昔と同じフォームで走ろうとします。ところが、その動きを支える力や柔らかさが同じとは限りません。

学生時代の感覚で地面を蹴ろうとしたときに、体がついてこない。このひらきが生まれる瞬間が、いちばん危ないところです。「思ったより足が上がらなかった」という感想が出るのは、そのためです。

② 準備運動が「当日だけ」になっている

見落とされがちなのがこれです。

当日のウォーミングアップは、その日の体を動かしやすくするためのものです。何年も使っていなかった動きが、10分で戻るわけではありません。

準備運動は必要です。ただ、準備運動だけで「久しぶりの全力疾走」への備えとして十分とは限りません。

準備運動をしたから大丈夫、という前提で全力を出してしまう——この組み合わせがいちばん怖いところです。

だから、この記事では「当日のストレッチのやり方」ではなく、前の1週間の話をします。

③ 靴と地面が、普段と違う

意外と多いのがこれです。

運動会は土や芝のグラウンドで行われることが多く、普段のアスファルトとは、地面の硬さや滑りやすさが違います

さらに、普段履かない靴で参加される方もいます。買ったばかりのスニーカーや、革靴のまま出たという話も聞きます。

足元の感覚が普段と違うことで、思わぬ踏ん張りが必要になることもあります。

なお、これら3つはどれか1つが原因というより、重なったときに起こりやすくなるとお考えください。

前の1週間でできる3つの準備

① 本番の前に、一度だけ体を動かしておく

おすすめはこれです。

運動会の数日前に、一度だけ軽く体を動かしてみてください。いきなり全力で走る必要はありません。まずは早歩きから始めて、体が温まってきたら、軽いジョギングを少し入れる程度で十分です。

ねらいは体を鍛えることではなく、「今の自分がどのくらい走れそうか」を本番前に知っておくことです。

ここで「思ったより足が重い」と感じたなら、それが当日いちばん役に立つ情報になります。本番でいきなり知るのと、数日前に知っておくのとでは、当日の走り方が変わります。

⚠️ ただし、この確認自体でも痛める可能性はあります。必ず体を温めてから、短く、余力を残して終えてください。

② 前日は、疲れを残さない

当日の朝ではなく、前日です。

前日に子どもの準備で夜遅くまで動いていて、寝不足のまま参加される方は多いです。

寝不足や強い疲労感があるなら、無理に全力を出さない判断も大切です。

前日に長時間の立ち仕事や、慣れない運動を入れないようにするだけでも違います。

③ 履く靴を、前もって決めておく

運動用の靴を、事前に一度履いて歩いておくのがおすすめです。買ったばかりの靴をその日に下ろすのは避けてください。

サイズが合っているか、ひもがきちんと締まるか。それだけで、踏ん張ったときの安定感が変わります。

足元の安定については、片足立ちがグラつく理由でお伝えした内容も参考になります。

⭐ そして、いちばん確実な方法があります

全力で走らない、という選択があります。

これは逃げではありません。全力を出さず、余裕を残して走りきるほうが、結果的に家族のためになることがあります。

余裕を残して最後まで笑っているのと、全力で走って翌週から松葉杖。お子さんにとってどちらがよいか、という話です。

「本気で走るお父さん・お母さん」は確かにかっこいいのですが、その後しばらく、抱っこも自転車を押すのもつらいという状態になると、家族の負担はかなり大きくなります。

これは走る競技に限りません。綱引きも玉入れも、「久しぶりに全力を出す」こと自体が負担になります。

ペースを落とすことを、最初から選択肢に入れておいてください。

もし走っている途中で痛くなったら

まず、そこで止まる

痛みを感じたら、その場でやめてください。「あと少しだから」と走りきると、その後の経過が長引くことがあります。歩けてしまうことも多いのですが、歩ける=軽い、とは限りません。

まず休ませる。冷やすのは補助です

痛めた直後は、まず運動をやめて、その場所を休ませてください。ここがいちばん大事なところです。

腫れや痛みが強い場合は、冷やすことで楽になることもあります。冷やすときは、保冷剤などを直接肌に当てず、タオル越しに短時間にしてください。直接当てると凍傷のおそれがあります。

なお、「何分冷やして、何時間後に温める」といった手順を決めきる必要はありません。痛みや腫れの出方には個人差があります。

伸ばさない・もまない

つい伸ばしたくなりますが、痛めた直後にストレッチをしたり、強くもんだりするのは避けてください。

急に痛めた直後にやることは、慢性的な硬さへの対処とは別です。この考え方は、ぎっくり腰の対処法でお伝えした内容と共通します。

普段の太もも裏の硬さが気になっている方は、太もも裏が硬い原因もあわせてご覧ください。ただしそれは痛みが落ち着いてからの話です。

自己判断で「軽いから大丈夫」と決めない

痛みの強さと、傷の程度は必ずしも一致しません。歩けていても、あとから腫れや内出血が出てくることがあります。痛めた場面がはっきりしているなら、整形外科などの医療機関で一度確認してもらうほうが、その後の見通しが立ちやすくなります。

まとめ

運動会で肉離れを避けるために押さえたいのは、次の3点です。

  • 準備は当日ではなく前の1週間——数日前に一度だけ体を動かして、今の自分を知っておく
  • 前日の疲れを残さない——寝不足の日は全力を出さないと決めておく
  • 全力で走らない選択を持っておく——余裕を残して走りきるほうが、結果的に家族のためになることがあります

肉離れは、じわじわ来るのではなく、ある一瞬に起こります。だからこそ、その一瞬が来る前に決めておけることのほうが多いのです。

今年は「数日前に一度だけ体を動かしてみる」。それだけでも十分な準備になります。

セルフチェック

当てはまるものがないか、確認してみてください。

  • ①ここ1年、全力で走った記憶がない
  • ②運動会で履く靴を、まだ決めていない
  • ③前日は子どもの準備で夜が遅くなりそう
  • ④「昔は速かった」という自覚がある
  • ⑤当日の準備運動だけで大丈夫だと思っている

当てはまる数が多いほど危ない、という表ではありません。当てはまった項目が、そのまま見直しやすい場所です。

  • ①④ → 当日はペースを落とすことを、走る前に決めておく
  • ②③前の1週間でできる3つの準備のうち、靴と前日の過ごし方だけでも十分です
  • → 準備運動は続けたうえで、それだけに頼らないと決めておく

全部やろうとしなくて大丈夫です。1つ選べば十分です。すでに痛みがある場合は、受診の目安を先にご覧ください。

やりがちなNG

  • 当日の朝に、買ったばかりの靴を下ろす
  • 準備運動をしたから大丈夫だと考えて、いきなり全力を出す
  • 痛みを感じたのに、ゴールまで走りきる
  • 痛めた直後に、伸ばしたり強くもんだりする
  • 歩けているからと、そのまま様子を見続ける

受診の目安

次のいずれかに当てはまる場合は、自己判断で様子を見ずに医療機関へ相談してください。

  • 痛めた場所に、明らかなへこみやくぼみがある
  • 見るからに腫れている、または内出血の色が広がってきた
  • 足に体重をかけられない、まっすぐ立てない
  • 痛めたあと、足先のしびれや感覚の異常、力の入りにくさが出てきた
  • 数日たっても痛みが軽くなる気配がない

とくに1つ目・4つ目——へこみやくぼみがある場合と、しびれや力の入りにくさが出てきた場合は、様子を見ないでください。整形外科などの医療機関を受診してください。

なお、痛めた直後は歩けていたのに、翌日のほうが動けなくなることがあります。当日に「大丈夫そう」と思っても、翌朝の状態で判断し直してください。

よくある質問

Q1. 準備運動は何をすればいいですか?

当日は、体を温めることを優先してください。その場での足踏み、軽いジョギング、腕を回すなど、じわっと汗ばむくらいまで動かします。

ただし、冷えた状態でいきなり強く伸ばすのは避けてください。伸ばすなら、温まったあとに軽く行う程度で十分です。

Q2. 湿布は貼ったほうがいいですか?

痛みが和らぐなら使って構いません。ただし、湿布で痛みが隠れると、動けてしまって悪化することがあります。痛みが引いた=治った、ではないとお考えください。かぶれやすい方は長時間の貼りっぱなしを避けてください。

Q3. どのくらいで走れるようになりますか?

傷の程度によって大きく変わるので、日数では言い切れません。軽く済む方もいれば、数週間から数か月かかる方もいます。「痛みがないこと」と「元の動きに戻れること」は別なので、復帰の時期は医療機関で相談しながら決めるのが安心です。

Q4. 筋肉痛と肉離れはどう見分けますか?

筋肉痛は運動直後よりも数時間〜翌日に痛みが強くなり、筋肉全体が重だるくなることが多いです。一方、肉離れは「走っている途中に突然痛んだ」など、痛みが出た瞬間がはっきりしていることがあります。ただし、症状だけで正確に区別するのは難しいため、強い痛みや腫れ、内出血、歩きにくさがある場合は医療機関で確認してください。

✍️ この記事の執筆者

ふみや|柔道整復師

整形外科クリニックのリハビリ室での臨床経験あり。30代以降の体の不調と向き合ってきた立場から、痛み・こり・姿勢・運動のセルフケアを「やさしく、でも本質を外さず」をモットーに発信しています。

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