買ったのに、肩の前が痛くなっていませんか
プッシュアップバーを買う理由は、だいたい2つに分かれます。
「腕立て伏せをもっと胸に効かせたい」
「床に手をつくと手首が痛いから」
どちらも自然な動機です。ところが、使い始めてからこうなる方がいます。
整形外科クリニックの現場で腕立て伏せについて伺うと、よく出てくるのが「肩の前が痛い」という声と、「途中で姿勢が保てない」という声です。
道具を足したのに、つらいところが増えてしまった。そうなると、せっかく買ったバーも使わなくなります。
深く下ろすことが目的になっていませんか。
深く下ろすほど効く、とは限りません
プッシュアップバーには、いくつかの役割があります。手首の角度を変えられること、握って支えられること、そして床より深く体を下ろせること。
このうち、床での腕立て伏せといちばん違うのは、手首をまっすぐに保ちやすいという点です。
床に手をつくと、手首は反った角度のまま体重を受けます。バーを握ると、その角度が浅くなります。手首が気になる方にとっては、ここが大きい違いです。
一方で、「床より深く下ろせる」という点は、効果と負担の両方につながります。深く下ろすほど、肩の前側にかかる負担が増えることもあります。
やっかいなのは、深さや回数は数字で見えるのに、姿勢が保てているかどうかは見えにくいことです。だから、つい見えるほうを足してしまいます。
深さを足す前に、その姿勢を保てているかどうかが先です。
⚠️ ただし、肩の前の痛みには、フォーム以外にもさまざまな背景があります。深く下ろしたことが原因、とは限りません。腕立て伏せをしていないときにも痛む、腕を上げると痛む、といった場合は、先に受診の目安をご覧ください。
プッシュアップバーの使い方で見直したい3つのこと
① 深さより先に、姿勢が保てているか
体を下ろしている途中で、腰が反る。お尻が落ちる。首だけが先に下がる。
こうなっているなら、深さが今の体に合っていないサインとして受け取ってください。
現場では、姿勢が保てないという方に「膝をついてもいいですよ」とお伝えしています。膝をつくのは、手を抜くことではありません。姿勢を保てる負荷まで下げて、そこから積み上げるほうが近道です。
膝をついた形でも、このあとの手の位置と重心の考え方は同じです。負荷が下がるぶん、姿勢に集中しやすくなります。
体を保ったまま動かす感覚は、プランクが続かないあなたへでお伝えした内容とも重なります。
② 手の位置と、重心の置きどころ
ここが、肩の前がつらくなる方に見てほしいところです。
まずは肩の真下あたりを基準にして、そこから無理なく姿勢を保てる位置を探します。幅は肩幅くらいが目安です。
手が肩より少し前になることもあり、真下でなければ間違い、というものではありません。効かせたい場所によって変えるのは、姿勢が保てるようになってからで十分です。
重心は、前後のどちらに寄っても具合が悪くなります。
- 重心が頭側に行くほど、手や肩にかかる負担は増えます
- かといって後ろに引きすぎると、腰を曲げてしまうなど、全身の姿勢が崩れやすくなります
大切なのは、前後どちらかに体重を預けすぎないことです。
自分では分かりにくいところなので、横からスマホで動画を撮ると確認しやすくなります。見るのは、腰が反っていないか、お尻が落ちていないか、首だけが先に下がっていないか。そして、下ろす途中のどこから崩れ始めるか。1回撮ってみるだけで、直す場所がはっきりします。
⚠️ 位置を変えて肩の前や手首に痛みが出るなら、その位置は今の体に合っていません。基準の位置に戻してください。
③ 手首の痛みは「いつ出るか」で分ける
「手首が痛いから、プッシュアップバーを買おうと思う」
この相談を受けたとき、現場でまず聞くのは「どのタイミングで痛みが出るか」です。
- 腕立て伏せのときだけ痛む → 手首の角度が変わることで、楽になる場合があります。試す価値はあります
- 腕立て伏せ以外でも痛む(ドアノブを回す、タオルを絞る、字を書く、寝ているとき) → 道具で解決する話ではありません。まず医療機関で相談してください
バーは、手首の角度を変えることで、腕立て伏せ中の負担を調整するための道具です。手首の痛みそのものの原因に対処する道具ではありません。
手首の痛みが続いている方は、手首が痛いあなたへ|腱鞘炎を繰り返す本当の理由もあわせてご覧ください。
置き方と床のこと
私自身も、普段使っていない部屋を筋トレ用にして、週に3回ほどプッシュアップバーを使っています。胸だけでなく、他の部位もあわせて動かすようにしています。
そのうえで、置き方で気をつけていることが2つあります。
床に直接置かない
フローリングでは、バーが床を傷つけたり、使用中に滑ったりすることがあります。必要に応じて、薄手のヨガマットなどを敷いてください。
⚠️ ただし、マットが厚すぎるとバーが沈んで不安定になることがあります。ぐらつきを感じたら、マットを薄くするか、安定した場所で使ってください。
向きは、安定するところから
バーの向きによって、手首や肩の感じ方が変わることがあります。まずは安定する向きから始めてください。
向きを変えて肩の前や手首に痛みが出るなら、その向きは今の体に合っていません。
深さや回数より、先に決めたいこと
判断は、翌日の関節まわりの痛みで
その場で「効いた感じ」がしても、それだけでは合っているかどうかは分かりません。
翌日に、肩の前や手首など関節まわりの痛みが残っていないか。ここを見てください。筋肉が張る感じ(筋肉痛)とは分けて考えます。関節まわりの痛みが残るなら、いったん深さを浅くするか、膝をついた形に戻します。
久しぶりの日ほど、浅く始める
しばらく空いたあとに再開する日は、前回できていた深さから始めたくなります。
ただ、間が空いたあとは同じ深さでも体の保ち方が変わっていることがあります。再開の日は、いつもより浅いところで止めて、姿勢が保てるかを先に確かめるほうが安心です。
プッシュアップだけに偏らない
プッシュアップは、胸や腕、肩まわりを使う運動です。これだけに偏らず、背中や脚なども含めて全身を動かす機会をつくると、運動のバランスが取りやすくなります。何から始めるか迷う方は、筋トレ初心者が最初に知るべき正しいやり方と効果もご覧ください。
まとめ
プッシュアップバーの使い方で押さえたいのは、次の3点です。
- 深さより先に、姿勢が保てているか——保てないなら、膝をついて構いません
- 手は肩の真下あたりを基準に。体重は前後どちらにも預けすぎない——頭側に行くほど手と肩の負担が増え、後ろに引きすぎると姿勢が崩れやすくなります
- 手首の痛みは「いつ出るか」で分ける——腕立てのときだけか、それ以外でも痛むか
プッシュアップバーは、深く下ろすための道具というより、手首をまっすぐ保ったまま腕立て伏せをするための道具です。道具は、使い方しだいで助けにもなれば、負担にもなります。
今日は、手を肩の真下あたりに置いて、いつもより浅いところで止めてみる。それだけでも十分な一歩です。
セルフチェック
- ①深く下ろすことが目的になっている
- ②下ろす途中で腰が反る、お尻が落ちる
- ③肩の前がつらいのに、手の位置を見直したことがない
- ④終わった翌日、肩の前や手首など関節まわりが痛い
- ⑤腕立て伏せ以外の場面でも手首が痛む
当てはまる数が多いほど悪い、という表ではありません。当てはまった項目が、そのまま先に見直す場所です。
- ①② → 見直したい3つのことの①へ。深さを戻すか、膝をついた形から始めてください
- ③ → 同じく②へ。肩の真下あたりを基準にして、そこから調整します
- ④ → 同じく①②へ。翌日に残るなら、今の深さか位置が合っていません
- ⑤ → 道具の問題ではありません。受診の目安を先にご覧ください
全部やろうとしなくて大丈夫です。1つ選べば十分です。
やりがちなNG
- 姿勢が崩れているのに、深さだけを増やす
- 膝をつくのを「手抜き」だと考えて、無理な形で続ける
- 手首が痛いまま、道具を替えて続ける
- バーを床に直接置いて使う
- 肩の前が痛いのに、回数を増やして慣らそうとする
受診の目安
次のいずれかに当てはまる場合は、自己流で様子を見ずに医療機関へ相談してください。
- 腕立て伏せをしていないときにも、肩の前が痛む——腕を上げる、寝返りを打つなどの場面でも痛むとき
- 手首が、日常の動作(ドアノブ、タオルを絞る、字を書く)でも痛む
- 手や指にしびれがある、力が入りにくい
- 腫れがある、押すと一点が強く痛む
- 深さや位置を見直しても改善しない、または徐々に悪化している
とくに、腕立て伏せ以外の場面でも痛みが出ている場合は、道具を替える前に一度相談してください。フォームの問題とは限らないためです。
よくある質問
Q1. 床での腕立て伏せができなくても、使っていいですか?
膝をついた形で、姿勢が保てる範囲から始めれば問題ありません。床でできるようになってから、という順番にこだわらなくて大丈夫です。大事なのは、下ろす途中で腰が反ったりお尻が落ちたりしていないことです。
Q2. 深く下ろしたほうが効きますか?
深さだけで決まるものではありません。深く下ろすほど肩の前側の負担が増えることもあります。翌日まで肩の前の痛みが残るなら、いったん深さを浅くして様子を見てください。
Q3. 手首が痛いのですが、買えば解決しますか?
痛みが出るタイミングで分けてください。腕立て伏せのときだけ痛むなら、手首の角度が変わることで楽になる場合があります。それ以外の場面でも痛むなら、道具で解決する話ではないので、まず医療機関に相談してください。
Q4. マットは必要ですか?
床を傷つけないために、あったほうが安心です。滑り止めにもなります。ただし厚すぎるとバーが沈んでぐらつくことがあるので、ぐらつきを感じたら薄いものに替えてください。
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