歩き出しだけ、アキレス腱が痛い
朝、起きて最初の数歩。かかとの少し上、アキレス腱が痛い。
長く座ったあとに立ち上がったときも、同じところがこわばって、最初だけ足を引きずるようになる。
ところが、歩いているうちに痛みは引いていきます。家を出るころには気にならなくなり、夕方には忘れている。
だから、こう考えます。
「動けば楽になるんだから、大丈夫だろう」
そして、歩く量も、走る量も、階段も、いつもどおり。翌朝、また同じところが痛い。
整形外科クリニックの現場でも、「歩いているうちに楽になるので、そのまま続けていました」という声を聞くことがあります。
動くと楽になる痛みは、続けてしまいやすい痛みです。
「楽になった」は「大丈夫」とは限りません
アキレス腱のまわりの痛みには、動き出しに強く、動いているうちに軽くなる、という出方をするものがあります。
ここで分けて考えたいことがあります。動いている最中に楽になったことと、その日の量が体に合っていたかどうかは、別の話です。
その場では平気だった。でも、その日の夜や翌朝になると、こわばりや痛みが前より強くなっている。そういうことがあります。
見るのは「動いている最中」ではなく、「翌朝の一歩目」です。
昨日の量が多かったかどうかは、動いている最中の感覚より、翌朝の動き出しのほうが手がかりになりやすいのです。
⚠️ ただし、「楽になるから続けたこと」だけが原因、というわけではありません。アキレス腱やかかとの後ろの痛みには、腱そのものの問題、腱がかかとの骨につくあたりの問題、靴の当たり、まわりの組織の腫れなど、さまざまな背景があります。この記事で扱うのは、歩く・走る・立つ量が関わっていそうなケースで、その一例として「楽になるから続けてしまう」流れを取り上げます。
急に強い衝撃を感じた、腫れている、じっとしていても痛む——そうした場合は、先に受診の目安をご覧ください。同じ「朝の一歩目」でも、痛むのが足の裏側の方は朝の一歩目に足の裏が痛いが参考になります。
アキレス腱が痛いときに重なりやすい3つのこと
原因を1つに決められないことがほとんどです。そのうえで、重なりやすいものを3つ挙げます。
① 歩く・走る量や内容が、急に変わった
痛みが出る少し前を思い出してみてください。
ウォーキングやジョギングを始めた。通勤で歩く距離が増えた。坂道や階段の多い道を通るようになった。立ち仕事に変わった。旅行で1日じゅう歩いた。
アキレス腱は、歩く・走る・階段を上る・つま先立ちになる、といった動きのたびに使われるところです。量の多さだけでなく、「急に」変わったことが関わっている場合があります。
運動を始めたばかりの方は、ジョギングの始め方もあわせてご覧ください。
② 楽になったところで、いつもどおり続けている
動き出しは痛い。でも数分で楽になる。そこで安心して、予定していた距離や時間をそのままこなす。
痛みが引いたあとは、どこからが多すぎたのかを、その場の感覚では測りにくくなります。
翌朝に痛みが強くなっていても、また動けば楽になるので、同じ量をくり返す。こうして、痛みと付き合う期間だけが長くなっていくことがあります。
③ 痛いところを、強く伸ばしたりもんだりしている
アキレス腱が痛いと、「硬いからだ」と考えて、アキレス腱伸ばしを念入りにする方がいます。痛いところを指でつまんで、強くもむ方もいます。
ふくらはぎを軽く伸ばすこと自体が悪いわけではありません。ただ、痛みが出ているところに、強い伸びや圧を何度もかけると、負担を足していることになる場合があります。
とくに、かかとの骨に近いところが痛む方は、段差からかかとを深く落とすような伸ばし方で、痛みが強くなることがあります。
量は減らさないまま、伸ばす・もむを足している。うまくいかないときは、この組み合わせになっていないか見てみてください。
伸ばす前に、量を見直す
① 翌朝の一歩目を、昨日の量の目安にする
朝、最初に立って歩き出したときの痛みやこわばりを、前の日とざっくり比べます。
- 前の日より強い → 昨日の量や内容を、少し減らしてみる
- 同じくらい、または軽い → その量を続けてみる
点数をつける必要はありません。「昨日より強いか、同じか、軽いか」だけで十分です。1日だけの変化で決めず、数日の流れで見てください。その日の夜の様子もあわせて見ておくと、振り返りやすくなります。
⚠️ これは体の状態を言い当てる方法ではありません。次の日の量を決めるための、1つの手がかりとして使ってください。
② ゼロにするのではなく、減らす
痛みが強くならない範囲で普段どおり動けるなら、まったく動かさないようにする必要はありません。減らすのは、最近増えた分からです。
- 走っているなら、いったん歩きに戻す
- 歩く距離が増えたなら、増える前の量に近づける
- 坂道や階段が続く道は、選べる日は平らな道にする
落ち着いてきたら、少しずつ戻していきます。そのときの目安も、①の翌朝の一歩目です。
③ 強く伸ばす代わりに、足首を軽く動かす
痛みがあるうちは、アキレス腱を強く伸ばすのをいったん休みます。
代わりに、椅子に座って片足を少し浮かせ、足首をゆっくり曲げたり伸ばしたりします。痛みのない範囲で、小さな動きで構いません。
朝の一歩目がつらい方は、立ち上がる前に、座ったまま足首を何度か動かしてから歩き出してみてください。動き出しが少し楽になる方もいます。
今日からの過ごし方
靴が変わっていないか、見てみる
主な原因とまでは言えませんが、あわせて確かめたいのが靴です。
- 最近、底が薄く平らな靴やサンダルに替えた
- 家の中で、裸足やスリッパで過ごす時間が増えた
- 靴のかかとの縁が、痛いところに当たっている
靴が変わると、同じ距離を歩いても、ふくらはぎやアキレス腱のまわりにかかる負担が変わることがあります。痛みが出た時期と、靴を替えた時期が重なっていないか、思い出してみてください。
靴の中で足が前後に動く方は、足の甲が痛いでお伝えした「かかとを合わせてから結ぶ」履き方も参考になります。
⚠️ かかとの縁が当たるところが赤い、腫れている場合は、靴だけ替えて様子を見るのではなく、受診の目安を確認してください。
休んだあとは、少ない量から戻す
数日休んで楽になると、動けなかった分をまとめて取り返したくなります。
休んだあとは、休む前より少ない量から。物足りないくらいで終えて、翌朝を見る。そのくり返しで、今の自分に合う量が見えてきます。
落ち着いてきたら、床の上でかかとを上げ下ろしする
朝の一歩目が軽くなり、普段の歩きで痛みが気にならなくなってきたら、ふくらはぎからアキレス腱にかけて、少しずつ負荷を戻していきます。
- 壁や机、椅子の背などに手を添えて、両足で立つ
- 両足のかかとを、ゆっくり上げる——高く上げようとしなくて構いません
- 上げたときよりも、ゆっくり下ろす——かかとを床に落とさず、静かに着けます
回数は決めなくて構いません。翌朝の一歩目が強くならない量から始めます。翌朝に痛みが強くなっていたら、回数を減らすか、数日あけてください。上げたときに足首が外へ大きく倒れるなら、上げる高さを低くします。
⚠️ 次の場合は行わないでください。
- 腫れや熱っぽさがある
- 歩くだけで強く痛む
- かかとを上げる途中で、鋭い痛みが出る
段差の縁に立ってかかとを深く下ろすやり方もありますが、痛む場所によっては負担が強くなることがあります。自己流で行うなら、まずは床の上で十分です。
まとめ
アキレス腱が痛いときに見直したいのは、次の3点です。
- 「楽になった」で判断しない——動いている最中の感覚ではなく、翌朝の一歩目を見ます
- ゼロにせず、最近増えた分から減らす——落ち着いたら少しずつ戻します
- 強く伸ばす・もむを足さない——代わりに足首を軽く動かします
アキレス腱の痛みは、動くと楽になるぶん、量を変えないまま続けてしまいやすい痛みです。伸ばす前に、もむ前に、まず昨日の量を振り返ってみてください。
明日の朝、最初の一歩で「昨日より強いか、同じか、軽いか」を確かめる。今日はそれだけで十分です。
セルフチェック
- ①歩き出しや朝の一歩目に、アキレス腱やかかとの後ろが痛む
- ②動いているうちに楽になるので、量を変えずに続けている
- ③最近、歩く・走る量や、坂道・階段が急に増えた
- ④痛いところを強く伸ばしたり、もんだりしている
- ⑤腫れている、熱っぽい、またはじっとしていても痛む
当てはまる数が多いほど重い、という表ではありません。また、当てはまったからといって、アキレス腱の病気と決まるものでもありません。当てはまった項目が、そのまま先に見直す場所です。
- ①② → 伸ばす前に、量を見直すの①から。翌朝の一歩目を目安にします
- ③ → 同じく②へ。最近増えた分から減らしてみてください
- ④ → 同じく③へ。強く伸ばす代わりに、足首を軽く動かします
- ⑤ → 量の問題とは限りません。受診の目安を先にご覧ください
全部やろうとしなくて大丈夫です。1つ選べば十分です。
やりがちなNG
- 動けば楽になるからと、同じ量を続ける
- 痛いところを、指で強くもむ
- 痛みをこらえて、アキレス腱伸ばしを念入りにする
- 数日休んだあと、休んだ分をまとめて取り返す
- 腫れているのに、靴だけ替えて様子を見る
受診の目安
次のいずれかに当てはまる場合は、自己流で様子を見ずに、整形外科などの医療機関へ相談してください。
- 急に、アキレス腱のあたりを蹴られたような、後ろから何かをぶつけられたような衝撃があった——そのあと、つま先立ちができない、歩きにくい
- アキレス腱やかかとの後ろが腫れている、赤い、熱っぽい
- じっとしていても痛む、夜も痛む
- 歩く量が増えたあとに、かかとの骨を押すと一点が強く痛む
- ふくらはぎ全体が腫れて痛む、片脚だけ強くむくんでいる
- 量を見直しても改善しない、または徐々に悪化している
とくに1つ目は、様子を見ないでください。アキレス腱が切れたときは、「アキレス腱のあたりを蹴られた」「後ろからボールをぶつけられた」と感じることが多いとされています(※1)。スポーツの最中だけでなく、年齢が上がると日常の動作の中で起こることも多いとされています(※1)。切れていても歩ける場合があるため、歩けるから大丈夫とは考えず、できるだけ早く整形外科などの医療機関を受診してください。
よくある質問
Q1. 痛いときは、歩かないほうがいいですか?
痛みが強くならない範囲で普段どおり動けるなら、まったく動かさないようにする必要はありません。最近増えた分から減らし、翌朝の一歩目で様子を見てください。ただし、急な衝撃のあとから痛む、腫れている、じっとしていても痛む場合は別です。受診の目安を確認してください。
Q2. アキレス腱伸ばしは、やめたほうがいいですか?
一律にやめる必要はありません。ふくらはぎが軽く伸びる程度で、痛いところに痛みが出ないなら、続けて構いません。伸ばすたびに痛いところへ響くなら、その伸ばし方はいったん休み、足首を軽く動かすところから始めてください。
Q3. どのくらいで落ち着きますか?
期間は人によって違い、はっきりとは言えません。数日で軽くなる方もいれば、落ち着くまでに時間がかかる方もいます。量を見直して1〜2週間ほどたっても変わらない、または徐々に悪化している場合は、整形外科などの医療機関で相談してください。
Q4. 温めたほうがいいですか、冷やしたほうがいいですか?
腫れや熱っぽさがある場合は、自己判断で温めたりもんだりせず、医療機関に相談してください。腫れや熱っぽさがなければ、入浴などで温めると動き出しが楽になる方もいます。ただし、どちらかが必ず経過を良くする、というものではありません。