家族の杖、そのまま使っていませんか
久しぶりに実家に帰ったら、親が杖をついて歩いていた。気づけば、もう何年も同じ杖を使っている。その杖の使い方、このままで大丈夫かな——と気になったことはありませんか。
- 右手で持っているけれど、痛いのは右の膝だった気がする
- 杖が少し短くて、前かがみで歩いているように見える
- 杖の先のゴムが、片側だけすり減っている
そんな様子に気づいても、「本人が使い慣れているから」と、そのままにしていることもあるかもしれません。
杖の使い方は、一度覚えると見直す機会が少ないものです。毎日使っているご本人ほど、少しずつの変化に気づきにくいこともあります。整形外科の現場でも、杖を持つ手が逆になっていたり、杖先のゴムがすり減ったまま使っていたりする方を見かけることがあります。
だからこそ、そばにいるご家族の目が役に立ちます。
杖は、体に合わせて使ってはじめて支えになる
杖は、歩くときに体重の一部を受け持ち、体を支える面を広げて、歩きやすくするための道具です。
ただし、持っているだけで支えになるわけではありません。持つ手、高さ、杖先の状態。この3つが体に合っていないと、杖に体重を預けにくくなったり、かえって滑りやすくなったりすることがあります。
杖は、体に合わせて使って、はじめて支えになります。
この記事では、いちばん広く使われている一本杖(T字型の杖)を中心にお伝えします。足が4本に分かれた杖や、腕に固定するタイプの杖などは、体の状態に合わせて選ばれるものです。杖を選ぶとき、使い方に迷うときは、理学療法士などの専門家に相談するようにしましょう。
⚠️ 急に歩きにくくなった、転んだあとから痛むといった場合は、杖の調整より先に、受診の目安をご覧ください。急に片側の手足に力が入らない、ろれつが回らないといった場合は、脳卒中などのおそれがあります。杖の調整ではなく、すぐに救急車を呼んでください。
杖の使い方で見落としやすい3つのこと
① 不調のある足と同じ側の手で持っている
杖は、痛みがある足や力が入りにくい足の、反対側の手で持つのが基本です。この記事では説明のために、こうした足を「不調のある足」と呼びます。
ところが、利き手で持ちやすいからと、不調のある足と同じ側の手で持っていることがあります。これは誤解されやすいところだとされています(※1)。
② 杖の高さが体に合っていない
もらった杖や、昔買った杖を、長さを合わせないまま使っていることがあります。背中が丸くなってきた、いつも履く靴が変わったなど、体や靴の変化で、合う高さが変わることもあります。
高さが合っていないと、長すぎて肩がすくんだり、短すぎて前かがみになったりすることがあります。
③ 杖先のゴムがすり減っている・硬くなっている
杖先のゴムは、使ううちに少しずつすり減っていきます。杖は少し斜めにつくため、片側だけが減る「片べり」も起こります。
すり減ったゴムは滑りやすく、雨の日や濡れた床では特に注意が必要です。見た目はすり減っていなくても、長く使ううちにゴムが硬くなり、滑りにくさが落ちることもあります(※2)。
持つ手・高さ・杖先のゴムの確かめ方
① 持つ手:不調のある足の反対の手で持つ
杖は、不調のある足の反対側の手で持つのが基本です。たとえば右の膝が痛いなら、杖は左手で持ちます。
反対の手で持つと、不調のある足を前に出すときに、杖でその分の体重を受け持ちやすくなります。体を支える面も左右に広がり、安定しやすくなります(※3)。
ただし、両足に痛みがある場合や、腕にも痛みがある場合、ふらつきが強い場合などは、一本杖が適しているとは限りません。無理に持ち替えず、医療機関やリハビリの担当者に相談しましょう。
歩くときの基本の順番は、次のとおりです。
- 杖を体の少し前に出して、安定する位置につく
- 杖で体を支えながら、不調のある足を前に出す
- 反対側の足を前に出す
歩幅は小さめから始め、痛みやふらつきが強くなる場合は無理に続けないようにしましょう。医師から体重のかけ方を指示されている場合は、その指示を優先してください。歩き方に不安がある場合は、専門家に実際の動作を確認してもらうと安心です。
② 高さ:手首の高さを目安に、握った姿勢でも確かめる
杖の高さは、いつもの靴を履いて立ったときに、握りが手首の小指側の骨の出っ張り付近にくる高さが目安です(※1)。
- いつも履いている靴を履いて、無理のない姿勢で立つ
- 腕を体の横に自然に下ろす
- 杖を体の横に立て、握りの高さを確認する
実際に杖を握ったときに、肘が軽く曲がり、肩がすくんだり体が大きく傾いたりしないかも確かめましょう。ご家族が横から見ると、分かりやすくなります。
ただし、背中が丸くなっている方や、まっすぐ立つことが難しい方は、手首の高さだけでは合わせられない場合があります。高さの調整に迷ったら、理学療法士などの専門家に相談してください。
長さを調節できる杖は、調節したあとに、留め具がしっかりはまっているかも確かめてください。
③ 杖先のゴム:すり減り・ひび・ぐらつきを見る
杖をひっくり返して、杖先のゴムを見てください。
- 底の滑り止めの溝が薄くなっている、なくなっている
- 片側だけがすり減って、斜めに削れている
- ひびや割れがある
- ゴムがぐらつく、外れかけている
- 触ったときに、以前より硬くなっている
杖先のゴムは、使う頻度や保管のしかたによって、劣化の進み方が変わります。こうした変化があれば、交換を検討しましょう。
杖先のゴムは、すり減りやひび割れ、硬さの変化に気づいたら交換を。
杖先のゴムの太さは、メーカーによって違うことがあります。交換するときは、杖のメーカーや型に合ったものを選び、取り付けたあとにぐらつきがないかも確かめてください。杖を買うときに、替えのゴムもいくつか用意しておくと安心です。
家族ができる、杖との付き合い方
① 会ったときに、3つを一緒に確かめる
帰省したときや、一緒に出かける前に、持つ手・高さ・杖先のゴムの3つを確かめてみてください。
ご本人にとって杖は、毎日使う体の一部のようなものです。「間違っている」と指摘するより、「ゴムを見せてもらってもいい?」「長さ、一緒に見てみようか」と声をかけるほうが、受け入れてもらいやすいかもしれません。
② 付き添い方は、一度専門家に教えてもらう
一緒に歩くとき、どこに付き添うと安全かは、本人の体の状態やふらつき方、歩く場所によって異なります。一般的には不調のある足の側に付き添う方法が紹介されていますが、前や後ろにつくほうがよい場合もあります(※3)。
ご家族が無理に体を支えようとすると、本人もご家族も転倒するおそれがあります。歩くことに不安がある場合は、理学療法士などに、安全な付き添い方を教えてもらいましょう。
③ 滑りやすい場所と段差では、いつもより慎重に
雨の日の路面、濡れたタイル、玄関の段差、敷居。杖が滑ったり、引っかかったりしやすい場所です。
- 濡れた場所では、杖先が滑らないか一歩ずつ確かめて歩く
- 手すりがある場所では、手すりも使う
- 階段の上り下りの順番は、体の状態によって変わるため、担当の理学療法士などに確かめておく
杖が合っているか分からない、歩き方に不安があるといったときは、かかりつけの医療機関やリハビリの担当者、お住まいの地域の地域包括支援センターなどに相談できます。
転んで足首をひねったときの過ごし方は、足首をひねった直後でお伝えしました。足腰の衰えが気になってきた方は、片足立ちがグラつく理由もあわせてご覧ください。
まとめ
ご家族が杖を使っていたら、一緒に確かめたいのは次の3点です。
- 持つ手——不調のある足の反対の手で持てているか
- 高さ——いつもの靴を履いて、手首の小指側の骨の出っ張りのあたりに握りがくるか
- 杖先のゴム——溝・片べり・ひび・硬さに変化がないか
杖の使い方は、一度合わせたら終わりではありません。体や靴、ゴムの状態に合わせて、ときどき見直していくものです。
次に会ったときは、杖を一度ひっくり返して、杖先のゴムを見せてもらってください。それが十分な一歩です。
セルフチェック
ご本人の杖と歩き方を、思い浮かべてみてください。
- ①痛みがある足と同じ側の手で、杖を持っている
- ②杖を握ると肩がすくむ、または前かがみで歩いている
- ③杖先のゴムの溝が薄い、片側だけすり減っている
- ④同じ杖・同じゴムを、何年も使い続けている
- ⑤雨の日や濡れた床でも、いつもと同じように歩いている
当てはまる数が多いほど危ない、という表ではありません。当てはまった項目が、先に見直す場所です。
- ① → 確かめ方の①へ。反対の手で持つのが基本です。両足が痛いときなどは担当者に相談を
- ② → 同じく②へ。いつもの靴を履いて、高さを合わせ直します
- ③④ → 同じく③へ。杖先のゴムの状態を見て、交換を検討します
- ⑤ → 杖との付き合い方の③へ。滑りやすい場所では一歩ずつ確かめます
全部やろうとしなくて大丈夫です。1つ選べば十分です。
次のような場合は、杖の見直しよりも受診を優先してください。
- 転んだあとから痛む、体重をかけられない
- 急に片側の手足に力が入らない、しびれる(この場合は、すぐに救急車を)
やりがちなNG
- 利き手だからと、不調のある足と同じ側の手で杖を持つ
- 家族が使っていた杖や昔の杖を、高さを合わせずに使う
- すり減ったり、ひびが入ったりした杖先のゴムを、そのまま使い続ける
- 太さの合わない杖先のゴムを、無理につける
- 長さを調節できる杖で、留め具がはまっているかを確かめずに使う
受診の目安
次のいずれかに当てはまる場合は、杖の調整だけで様子を見ずに、整形外科などの医療機関へ相談してください。
- 杖を使っていても、転びそうになることが増えた
- 歩くときの痛みが強くなった、歩ける距離が急に短くなった
- 足に力が入りにくい、しびれが出てきた
- 杖を使っていて、手首や肩、腕に痛みが出てきた
転んだあとに痛みが強い、体重をかけられない場合は、骨のけがの可能性もあります。様子を見ずに、早めに医療機関を受診してください。
急に片側の手足に力が入らなくなった、しびれる、ろれつが回らない、顔の片側がゆがむ——このような場合は、杖の調整ではなく、すぐに救急車を呼んでください。
よくある質問
Q1. 両方の足が痛い場合は、どちらの手で持てばいいですか?
自己判断で決めず、医療機関やリハビリの担当者に相談してください。左右の痛みの強さや、腕の状態によって、合う持ち方が変わります。一本杖が合っているかどうかも含めて、確かめてもらうと安心です。
Q2. 杖を使うと、足が弱くなりませんか?
杖そのもので足が弱くなる、と決めつける必要はありません。気をつけたいのは、杖に頼って歩く量が減ってしまうことです。どんな場面で杖を使うか、杖なしで歩いてよい場面があるかは、体の状態によって違うため、専門家に相談しながら決めていきましょう。
Q3. 杖先のゴムは、どこで買えますか?
杖を買ったお店や、福祉用具を扱うお店で相談できます。杖先のゴムの太さはメーカーによって違うことがあるため、今使っている杖に合うものを選んでください。分からない場合は、杖を持って行って合わせてもらうと確実です。
Q4. 折りたたみの杖でも大丈夫ですか?
持つ手・高さ・杖先のゴムの考え方は同じです。ただし、折りたたみの杖は、伸ばしたり縮めたりするのに両手が必要なものがあります。使う前に、つなぎ目がしっかり固定されているかも確かめてください。
出典・参考文献
※1 杖の選び方・使い方(その1〜その5)|福ナビ(とうきょう福祉ナビゲーション・公益財団法人東京都福祉保健財団)(2026年10月26日閲覧)
※2 福祉用具ヒヤリ・ハット情報 Case77「杖がすべり、転倒しそうになる」|公益財団法人テクノエイド協会(2026年10月26日閲覧)
※3 介護技術コラム 第8回「歩行」|WAM NET(独立行政法人福祉医療機構)・執筆は理学療法士(2026年10月26日閲覧)